バックナンバーのライブで語られた清水依与吏のMCは、ステージ上の言葉を超えて、静かに聴く者の胸に届くものだった。派手な演出でもなく、説得でもなく、ただそこにいる人々の見えない苦しみに寄り添うように紡がれた言葉の数々である。
平気な顔の裏にある、語られない苦しみ
清水はまず、こう切り出した。
「今こうやってすげえ平気な顔して、本当は腹の底でめちゃくちゃ辛いことがあってでも、空気壊しちゃいけないと思って必死に笑ってる人がいるかもしんないじゃない」
学校に通う生徒、職場で働く大人、家庭を支える親。それぞれが「心配かけたくない」「迷惑かけたくない」という理由で、誰にも言えずに抱え込んでいる痛みがある。清水はその存在を、決して特別な誰かの話ではなく、「いるかもしれない」という想像力で提示した。
- 親に心配かけたくなくて、友達に気を遣わせたくなくて、何も言わずに登校し続ける学生
- 自分に合っていないと感じながらも、周りに合わせて頭を下げ、ギリギリで毎日を繋ぐ労働者
- 「自分しかやる人がいない」からと、洗濯、ゴミ捨て、子育てを一人で背負い、「お父さんお母さんだから当たり前」と言われ、ありがとうとも言われずに過ごす日々
それらの姿を「格好悪くたって、一生懸命やってなんか生まれるかもしんない」と肯定した瞬間、会場の空気が変わった。
消せない過去、帰ってこないもの――それでも「特別だった」と証明する
清水は、安易な慰めを口にしなかった。
「自分自身で100点満点だっていう風に思ってないその人生の、辛かったこととか悲しかったこととか痛かったこととか、なくしたものとかなくした人とか、そういうのをチャラにできるとか帰ってくるようにするとか、そういうことはきっとできないけど」
失ったものは戻らない。傷は消えない。その前提を受け入れた上で、彼はバンドとしての役割を語る。
「これからあなたに関係のある曲だけを一生懸命、それそれそれだけを一生懸命作って、あなたの人生がしんどかったかもしんないけど、いいことばっかりじゃなかったかもしんないけど、でも特別だったんだよっていう風に俺らがきちんと証明してみせるんで」
音楽で過去を書き換えることはできない。だが、その人生が「特別だった」と証明し続けることはできる。それがバックナンバーというバンドが選んだ、リスナーへの誠実な向き合い方なのだ。
「これからも聴き続けてください」――静かな約束
MCの最後は、感謝と、これからも続く関係性への意志で締めくくられた。
「これからもバックナンバーを聴き続けてください。本当にいつもどうもありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
特別な結びの言葉ではない。だが、それまでの言葉の重みを知った後では、この一言がどれほどの覚悟と優しさを含んでいるかが伝わってくる。
誰かの人生の傍らで、音楽が「あなたは特別だった」と証明し続ける。清水依与吏のMCは、そんなささやかで確かな約束の現場だった。