朝7時、台所で52歳の佐藤さんが急須に湯を注いでいる。湯飲みは一つだけ。いつもなら棚から出す茶碗も味噌汁のお椀も、今朝は出てこない。先月から朝食をやめ、昼と夜の1日2食に切り替えた。朝の台所が少し静かになった一方で、体の内側ではいつもと違う動きが始まっている。2食にして最初に変わるのは胃ではなく、肝臓だというのがこの話の出発点になる。
朝食を抜いた12時間目、肝臓が蓄えを出し始める
夕食から12時間。肝臓は蓄えた糖を少しずつ出して血糖値を保ってきた。朝食を食べないと、この「出す時間」が昼まで伸びる。蓄えが減ると体はお腹の脂肪組織からも回し始める。30代と比べ、50代は筋肉が糖を受け取りにくく、肝臓に脂肪が溜まりやすい。だから夜から昼までの空白が長くなること自体に意味が出てくる。
5万人を7年追った観察調査では、1日1〜2食の人は3食の人よりBMIが毎年わずかに下がる傾向があり、4回以上食べる人は少しずつ増える方向だった。ただしこれは観察結果で、2食にしたから痩せたと証明したものではない。あくまで回数と体の変化に関係がありそうだという入口に過ぎない。
空腹は波のように来て、中身で分かれる
朝10時、会議中に腹が鳴る。空腹を知らせるホルモンは、いつもの食事の時刻に合わせて波のように上がる。波なのでしばらくすると自然に引く。2食の生活に慣れると、波の来る時刻も昼へずれてくる。
緑茶・麦茶・無糖のコーヒーなら体の港にほとんど届かない。一方、甘い缶コーヒーやカフェオレは小さな船が一隻入るのと同じだ。血糖値を下げる薬やインスリン注射を使う人は、食事を抜くと低血糖が起こり得る。2食に変える前に薬の量や飲む時刻を主治医と決めておく。冷や汗や震えが出たときは我慢せず、すぐ糖分を取る。ここは体の都合より安全が先だ。
昼の一食目は、順番とタンパク質で決まる
17時間ぶりの食事。焼き魚の定食だ。長い空白の後の一食目は、糖が一気に届くのに備えて膵臓がインスリンを送り出す。平均57歳の糖尿病患者22人を調べた研究では、朝食を抜いた日は同じ糖質でも血糖値の山が37%大きくなった。これは糖尿病患者が1日だけ試した結果で、健康な人も同じとは限らない。ただ一食目の糖の積み方には工夫できる余地がある。日本の研究では、野菜を先に、ご飯を後で食べると血糖値の山が低くなった。小鉢のお浸しや味噌汁の具から箸をつけ、ご飯は最後の方に回す。量は3食のときの一食分から急に2倍へ増やさなくていい。空腹の後ほど早食いになりやすいので、一口ごとに箸を置くくらいで十分だ。
12時半、太ももの筋肉に目を向ける。食事のタンパク質は筋肉の補修に使われる。20代と70歳前後の男性を比べた分析では、一回の食事で筋肉の合成が頭打ちになるタンパク質量は、若い人で体重1kgあたり0.24g、70歳前後で0.4gとほぼ倍だった。体重70kgなら一回約28g。3食なら少なめの食事が続いてもどこかで取り返せるかもしれないが、2食では筋肉が糖を受け取るチャンスは1日2回しかない。一食目がかけそばだけ、パンとコーヒーだけだと補修はほぼ空振りになる。この研究は70歳前後の男性のもので、50代の正確な量を示してはいない。それでも年齢とともに一回に必要な量が増える方向は覚えておきたい。
午後の空白と夕食の重心
午後3時、3食の人なら甘いものを摘みたくなる時間だ。2食の体には夜7時まで船が来ない。糖尿病患者54人が同じカロリーを6回に分ける期間と朝昼の2回で食べる期間を12週間ずつ試した研究では、2回の期間は体重が3.7kg減り、6回の2.3kgを上回った。肝臓の脂肪も空腹時血糖も2回の方が下がり、肝臓に糖を出させるグルカゴンは6回で上がったのに2回では下がっていた。ただしこの2食は朝と昼で、参加者は糖尿病患者で全員カロリーを減らしていた。
夕方6時、帰りの駅の階段。足の筋肉は肝臓から来た糖と脂肪組織からの糖を使って動いている。空腹で階段が辛い日は一段飛ばしをせず、手すりを使う。
夜7時、2食目。昼から7時間空いている。ここで朝抜いた分まで取り返そうと大盛りの夕食にするのが一つの落とし穴だ。5万人の調査では、一番多く食べるのが朝の人ほどBMIが下がる傾向だった。夕食が最大の人と比べると、昼が最大の人も良い傾向だった。2食の人には量の重心をどちらに置くかが回数と同じく大切になる。昼はしっかり、夜は昼より軽めが無理のない選択だ。ただ夜のタンパク質まで削ると筋肉の話に戻ってしまう。減らすのはご飯のお代わりや揚げ物で、魚や豆腐、卵のおかずは残す。晩酌の日はつまみが3食目にならないよう、夕食の時間の中で終える。
帰りが遅い人、家でゆっくりできる人
仕事の帰りが夜9時を過ぎる日が多い人は、昼を一番大きな食事にし、夜はおかず中心の軽い食事にする。遅い時刻に大きな船を入れないだけで夜の負荷はかなり違う。定年を迎えて朝も昼も家でゆっくり食べられる人は、朝と昼の2食にして夕方は何も食べない組み合わせも選べる。どちらの形でも一回ごとのタンパク質を確保する点は変わらない。
夕食後の10分が血糖値を分ける
夜7時45分、近所を一回り歩く。平均60歳の糖尿病患者41人を調べた研究では、毎食後に歩く期間は、1日1回30分歩く期間より食後の血糖値が低く抑えられた。全体で1割余り、夕食後に限ると2割あまり低かった。2食の人にとって夕食後の10分は、届いた糖を筋肉が受け取る時間になる。膝や心臓に持病がある人は距離と速さを自分の体に合わせて決める。
寝るまでの余白が、夜の作業を切り替える
夜11時、夕食から4時間。胃の中身はほぼ送り出され、体は夜の作業に切り替わる。健康な若い人を対象にした実験では、夕食を夜10時に取ると夜6時より血糖値が高くなり、眠っている間に食事の脂肪が使われる量も少なかった。夕食を早く終えるほど、夜の体には脂肪の糖を回す時間が長く残る。佐藤さんのように夜7時に食べ終えれば、寝るまでに4時間の余白がある。ただしこれは短期の実験で、お腹の脂肪が長期でどう変わるかは測っていない。
1日1食まで減らすのは、2食に慣れてから
健康な中年が1日1食と3食を8週間ずつ試した研究では、カロリーは同じに揃え、体重が変わらないよう調整されていた。1食の期間は体脂肪がわずかに減ったが、空腹感が強くなり、血圧とLDLコレステロールが上がった。50代からは血圧もコレステロールも健康診断で気になり始める年代だ。2食は空白の長さと体の余裕の釣り合いを取りやすい回数と言える。1食まで減らすかどうかは、2食に慣れてから考えても遅くはない。
数字は数週間後、自分の健診に現れる
翌朝7時。一晩でお腹回りが目に見えて変わることはない。変化が数字に出るのは、この一日を何週間も繰り返した後だ。健康診断で見るなら腹囲と空腹時血糖、肝臓の数値ALT。健診は年1度なので、腹囲だけは家で毎週同じ朝に測る。正直なところ、50代の日本人が2食を何年も続けた試験はまだない。紹介した研究も海外の人や糖尿病患者、若い人が中心だ。だからこそ自分の健康診断の数字が一番確かな手がかりになる。回数を減らすだけでなく、一回の中身を整えること。それが50歳からの2食の本題だ。