ミルグラム実験の「65%」を読み直す——命令ではなく、状況と二人目が人を動かす
社会心理学

ミルグラム実験の「65%」を読み直す——命令ではなく、状況と二人目が人を動かす

たとえば、あなたが古い実験室の椅子に座っている。目の前に30個のスイッチが並び、壁の向こうから「心臓が苦しい。もう出してくれ」と声が聞こえる。隣の白衣の人が静かに「続けてください」と言う。どのスイッチで手を止めるか。多くの人は「途中で必ず止める」と答える。しかし1961年の実験では、ある条件で65%の人が最後のスイッチまで押した。この数字はあまりに有名だが、実は23通りある条件のうちの一つにすぎない。条件を変えると数字は大きく動く。ここから見えてくるのは、人間の冷酷さではなく、状況が人を動かす仕組みかもしれない。

有名な65%の正体

ミルグラムの実験には、記録に残るだけで23通りの条件があった。教科書に載る65%は、生徒役の声が聞こえない条件の数字だ。声が聞こえる条件では数字が変わる。

  • 生徒役の声が聞こえない条件:65%
  • 生徒役と同じ部屋にいる条件:40%
  • 生徒役の手を電極の板に押し付けさせる条件:30%
  • 実験者が電話で指示する条件:40人中9人
  • 普通の人が指示する条件:20人中4人
  • 大学の外の古い事務所で行う条件:47.5%
  • 強さを自分で選べる条件:40人中1人
  • 押すのが別の人という条件:40人中37人

最後まで押した割合は、条件によって2.5%から92.5%まで開く。450Vまで進められる21の条件を合わせると、最後まで押した人は323人、途中で止めた人は417人だった。止めた人の方が多かった。この事実は、単純な「人間は冷酷になれる」という語りとは違う。なお、この実験は参加者に強い心理的負担をかけ、後に研究倫理の代表的な批判例になった。数字を語るとき、その背景も忘れてはならない。

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命令らしい言葉はほとんど使われなかった

実験者が使う決まった言葉は4段階あった。最後の「あなたに選択の余地はありません。続けなければなりません」まで言われた人は23人。その後も押し続けたのは2人だけだった。2006年の再現実験では、4つ目の言葉の後に続けた人は0人だった。つまり、強い命令が人を最後まで押させたわけではないらしい。

では何が人を動かしたのか。一つの説は「大事な研究に協力している」という感覚だ。別の説は「本当は痛くないはずだ」という思い込み。実験直後の録音では、続けた人の72%が「演技だろう」と説明していた。権威への服従という説明だけでは、記録と合わない部分がある。

二人目の「やめます」が流れを変える

仲間の二人が「続けられません」と席を立つ条件では、最後まで押したのは40人中4人だった。一人が断るのを見せるだけでは、2006年の再現実験ではほとんど変わらなかった。二人目が必要だった。これは、正しいことのためと言われたときこそ、周りの誰かが「やめる」と言えるかどうかが分かれ目になるという見方につながる。

日常でも、会議や職場で「本当にこれでいいのか」と思ったとき、一人目の違和感は流されても、二人目の声があると空気が変わることがある。実験の数字は、その瞬間の重さを教えてくれる。

スイッチの前に戻る

最初の問いに戻る。あなたはどのスイッチで手を止めるか。条件によって数字がこれだけ変わるなら、「自分なら止める」という自信も、状況に左右される。強さを自分で選べるなら、ほとんどの人は弱いスイッチしか押さなかった。押す役を他人に任せられるなら、40人中37人が最後まで続けた。手を汚さない役割は、人の判断を鈍らせる。

だから、もし「これはおかしい」と思ったとき、二人目になれるかどうか。その選択が、流れを変えるかもしれない。答えは一つではないが、数字は「冷酷さ」ではなく「状況と役割」を見つめ直す手がかりを残している。

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