東京に引っ越しただけで、自分のランクがひとつ上がったように感じる。そんな感覚にとらわれていると、家計の数字を見るのが後回しになります。先に答えを書くと、住所そのものは収入を増やさず、自分の価値を決めるものでもありません。ただし、そう感じてしまう心の動きには理由があり、手取り・家賃・税金という順番で数字を追っていくと、どこで息苦しくなるのかが見えてきます。
住所が「装備」に見えてしまうとき
上京した人が最初に投稿する写真には、共通の構図があります。コンビニのコーヒーを片手に、遠くにタワーが映る角度。見ている側が受け取るのは「当たりの演出」だけで、その人の家計の中身までは写りません。
仮の例として、手取り19万円で家賃8万5000円の部屋に住み、夕食がもやし鍋という生活を想像してみてください。収入の4割以上が住居費に消え、SNSには夜景の写真だけが並ぶ。この落差は、特別な人に起きていることではありません。住所をステータスとして扱う感覚は珍しいものではなく、だからこそ、演出と家計がずれやすいのです。
東京の年収と「手残り」の話
ここで参照されていた数字を挙げておきます。東京都の正社員の年収は、中央値で400万円前後とされていました。中央値とは、金額を順に並べたときの真ん中の値のことです。平均値と違って極端に高い金額の影響を受けにくいため、「半数はこの金額以下」という意味を読み取りやすい指標になります。
同じく参照されていた人口移動の統計では、東京は転入する人のほうが多く、その差は年間で6万人を超えていました。一方、稼ぎから食費と住居費を引いた手残りを比べると、東京は全国でも上位ではなく、通勤時間まで含めると順位はさらに下がる、という整理が紹介されていました。
つまり、人が集まる場所と、手元にお金が残る場所は、必ずしも一致しません。ここで挙げた数値は調査の時期や対象によって変わるため、判断の前に一次情報を確認することをおすすめします。記事としての解釈はこうです。「人が集まっている」ことは「暮らしが楽である」ことの証明にはならない、ということです。
2年目の6月に手取りが減る理由
社会人2年目の6月、手取りが1万円ほど減って驚く人は少なくありません。これは住民税の仕組みによるものです。住民税は前の年の所得に対して、翌年の6月ごろから本格的に天引きが始まります。1年目に「思ったより手元に残った」と感じた分は、翌年に請求が回ってくる形になりやすいのです。
仮の例として、手取り19万円の人が住民税の天引きで17万9000円になり、家賃8万5000円、光熱費1万5000円、通信費1万円、返済2万円を引くと、残りは4万9000円ほど。ここから食費や日用品、付き合いの飲み会まで出すとなると、1日あたりの使える金額はかなり小さくなります。収入が増えた実感より、引かれる実感のほうが先に来る時期だと言えます。
引っ越しは「攻め」ではなく固定費の買い物
家賃を下げるために引っ越す、という判断は合理的に見えます。ただし、引っ越しには初期費用がかかります。仮の例として、敷金・礼金・仲介手数料・前家賃・引っ越し代を合わせて38万円かかったとしましょう。家賃が月3000円下がる場合、この費用を回収するには10年以上かかる計算になります。
さらに、賃貸には更新料があります。2年ごとに家賃1か月分を支払う慣習で、契約書の日付が更新されるだけに見えても、支払いは発生します。目先の家賃の差額だけで判断すると、更新のタイミングで予定が崩れやすくなります。
返しても減りにくいリボ払い
初期費用を分割払いで払い、その後にリボ払いへ切り替えると、毎月の支払額は抑えられます。リボ払いとは、月々の返済額を一定にし、残りを借金として繰り越す仕組みです。手数料は年15%前後かかることが多く、返しても返しても元本がなかなか減らない状態になり得ます。
家賃の滞納が重なると、利息と滞納分の増えるスピードが返済を上回ります。請求の封筒を見ないようにしても、残高は止まりません。見なければ存在しないというわけにはいかないのが、お金の性質です。
「運ぶだけ」の求人が持つ本当の値段
家計が苦しくなったとき、SNSのメッセージ欄に「簡単な運搬の仕事、日給5万円、即日払い、身分証があればOK」といった募集が届くことがあります。この種の募集は、いわゆる闇バイトと呼ばれるもので、特殊詐欺の実行役を集める求人である可能性があります。
参照されていた統計では、特殊詐欺の被害額は約718億円、摘発された人の約7割が受け子や出し子といった末端の役割、応募の約4割がSNS経由だったとされていました。数字は出典によって変わるため目安として受け取ってください。注目したいのは、募集の文言が「運ぶだけ」と書かれていても、荷物を運んだ時点で犯罪の一部に関わる可能性があるという点です。
また、この種の求人は応募の段階で身分証の画像を送らせることがあります。本人確認に見えますが、実家の住所まで把握され、断りにくい状況に追い込まれる流れにつながり得ます。「1回だけ」で終わった人はいない、という指摘も紹介されていました。
もし似た募集に心が動いたら、返信する前に誰かに話してください。警察の相談専用電話(#9110)や、消費者ホットライン(188)のような公的な窓口もあります。ひとりで判断しないことが、いちばん現実的な防御になります。
数字を人に見せる、という選択
家計の相談は、失敗の告白ではありません。むしろ、リボ残高や滞納額を隠したままでは、どんな助言も届きません。家計を見せられる人は、それだけで選択肢が増えます。
ただし、東京での暮らしがすべての人に合わないわけではありません。職種によっては東京にしか仕事がない場合もありますし、地方に移れば必ず貯金できるというものでもありません。家賃が安くても車が必要な地域もあり、収入自体が下がる可能性もあります。向いているかどうかは、人によって違います。
判断するために見るべき数字
- 手取り額と家賃の比率(4割を超えていないか)
- 住民税の天引きが始まる時期の収支
- 引っ越し費用を何年で回収できるか
- リボ払いや分割払いの手数料と残高
- 食費・光熱費・付き合いの費用を含めた1か月の総額
住所は、努力で手に入れる装備ではありません。借りているのは部屋であって、自分の価値ではないからです。もし今の暮らしが苦しいなら、まず数字を紙に書き出し、そのうえで信頼できる人や公的な相談先に一度見せてみてください。東京に残るか離れるかは、その後の判断でかまいません。