冬の家の中で、もっとも危ない場所はどこかご存じでしょうか。階段や台所の火元を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、国の調査によると、家庭や施設の浴槽で溺れて亡くなる方は年間およそ4900人にのぼり、同じ年の交通事故による死亡者数のほぼ2倍に達しています。入浴中の急な体調変化まで含めると、さらに多いと推計する研究もあります。
この数字は、ニュースで大きく取り上げられることが少ないため、あまり知られていません。とはいえ、怖がるための話ではありません。今日からできる小さな工夫で、入浴時のリスクをかなり減らせます。ここでは、具体的な対策を5つに分けて紹介します。
なぜお風呂が危ないのか:温度差と血圧の変化
暖房の効いた部屋から寒い脱衣所へ移動し、服を脱いで熱い湯に入る。この一連の流れで、体の中では血圧が大きく変動します。寒い場所では血管が細くなって血圧が上がり、熱い湯に入ると血管が広がって血圧が急に下がります。この急激な変化が体に負担をかけるのです。
特に、脱衣所が18度より寒い家で、42度以上の熱い湯に入る習慣があると、二つの負担が重なります。寒い脱衣所と熱い湯、どちらか一方だけでも注意が必要ですが、両方が揃うとリスクが高まります。
今日からできる対策1:脱衣所と浴室を温める
まずは、脱衣所と浴室をあらかじめ温めておきましょう。方法はいくつかあります。
- 脱衣所に小さな暖房器具を置く
- 入る前に浴槽の蓋を開けておき、湯気で浴室を温める
- シャワーを高い位置から1分ほど出して浴室全体を温める
脱衣所に暖房を置く場所がない場合は、湯を溜めるときに浴槽の蓋を開けたままにしておくだけでも違います。湯気が浴室に回り、室温が上がります。また、いきなり肩まで浸からず、足先や手先から少しずつお湯をかける「掛け湯」も、体に温度変化を知らせる助けになります。
対策2:お湯の温度と入浴時間を見直す
国が示す目安は、湯温41度以下、入浴時間10分までです。41度は少しぬるく感じるかもしれませんが、42度の湯に10分浸かると体温が38度近くまで上がるというデータもあります。38度は発熱時の体温に相当し、意識がぼんやりして眠気を感じる原因になります。湯船の中で眠気に襲われると、そのまま沈んでしまう危険があります。
体感温度はあてになりません。寒い日ほど同じ41度でもぬるく感じ、知らないうちに設定温度を上げてしまうことがあります。浮かべるタイプの水温計を一つ置いて、数字で確認する習慣をつけると安心です。ぬるめの湯で短く入ることが、長く入浴を楽しむための条件でもあります。
対策3:立ち上がるときはゆっくりと
湯船の中で体には水の圧力がかかっています。立ち上がるとその圧力が一気になくなり、下半身に血液が下がって頭への血流が一時的に不足します。その結果、めまいやふらつきが起きやすくなります。濡れた床の上でふらつけば、転倒のリスクは高まります。
手すりがある場合は必ず使い、ない場合は浴槽の縁に手をついて一度しゃがむような姿勢をとってから、ゆっくり立ち上がりましょう。手すりは後付けできるものもあり、浴槽の縁に挟むだけの簡易タイプや、介護保険の補助が使える場合もあります。滑り止めマットも有効です。また、浴室の床に石けんカスが残っていると滑りやすくなるため、年に数回でよいので床を重点的に洗う日を作るとよいでしょう。
対策4:避けるべきタイミングと家族への一声
入浴を避けたほうがよい場面が3つあります。食後すぐ、飲酒後、そして薬を服用した後です。食後は血液が胃に集まり、飲酒後は血管がすでに広がっています。薬によっては同様の作用を持つものもあります。そこに熱い湯が加わると、体への負担が重なります。
特に、晩酌の後にお風呂に入る習慣は見直したいところです。順番を入れ替えて、お風呂が先、お酒は後にすると、リスクを一つ減らせます。そして、入浴するときは家族に一声かけてください。「お風呂に入るね」と伝えるだけでも、万一のときに気づいてもらいやすくなります。家にいる側は、いつもより長く物音がしない、あるいは急に大きな音がした場合に声をかけ、返事がなければ見に行くようにしましょう。
一人暮らしの場合は、入浴する時間を離れて暮らす家族に伝えておく、長風呂をしない、湯温をぬるめにしておくなどの工夫が考えられます。完全な答えはありませんが、できることから始めてみてください。
お風呂以外の冬の危険:トイレと廊下、転倒
温度差によるリスクは、お風呂だけではありません。夜中に暖かい布団から出て、暖房の切れた廊下を通り、家で一番寒いことの多いトイレへ行くときも、同じような血圧の変動が起きます。対策としては、トイレに小さな暖房を置く、廊下に小さな明かりをつける、寝室に上着を一枚置いて起きたときに羽織る、といったことが有効です。
また、転倒事故も冬に増えます。65歳以上の方の転倒の約半数は自宅で起きており、場所別では浴室・脱衣所が最も多く、次いで寝室、玄関、階段と続きます。原因は「滑った」「つまずいた」「ぐらついた」など日常的な動作がほとんどです。滑り止めのついた靴下を選ぶ、廊下や床に物を置かない、といった小さな習慣が転倒を防ぎます。
冬の家の中は、お風呂に限らず温度差と滑りやすさに注意が必要です。今日からできることを一つずつ取り入れて、安全な冬の暮らしを整えていきましょう。