芥川賞作家であり漫才師でもある又吉直樹氏が、キャリアの選択と転職について語った言葉が、多くの働く世代の共感を呼んでいます。20代前半で決めた職業に一生を賭ける必要はないのか。年齢とともに変化する「好み」と「職業」の不一致に、どう向き合えばよいのか。その問いに対する、静かで力強い視点を紹介します。
22歳の選択に、人生すべてを委ねなくていい
「22歳に自分の障害の仕事をこう選択させてるって、自分の人生を俯瞰で見た時にまあまあなことなんですよね」
又吉直樹
就職活動の時期、多くの人は22歳前後で「生涯の仕事」を選ばされます。しかし、人生を俯瞰してみれば、その決断がいかに若々しく、かつ重大なものかが見えてきます。又吉氏は、このタイミングでの選択が人生全体を決めてしまうことへの違和感を、率直な言葉で表しています。
好みは変わるのに、職業だけ変わらない不思議
「だんだん好みも変わっていく。好きなご飯も変わるし、読む本も変われば見る映画も変わってきたのに、なぜ職業だけ22歳、18歳の時の選択に全てを委ねるんだって」
又吉直樹
食の好み、読書の傾向、映画の趣味。年齢を重ねれば、それらは自然と変化していきます。にもかかわらず、職業だけが若き日の決断に縛られ続けるのは、合理的ではないと又吉氏は指摘します。この「好みの変化」と「職業の固定」のギャップこそが、キャリアの見直しを迫られる本質的な理由なのかもしれません。
30代半ばの「軌道修正」は、決して逃げではない
「そしたら起動修正がどっかで必要で、それが多分30代半ばぐらいなんすよ」「30半ばぐらいで転職を考えるっていうのはめちゃくちゃ自然なことで」
又吉直樹
「軌道修正」という言葉には、失敗や後退ではなく、現在の自分に合わせて舵を切り直す前向きなニュアンスが込められています。30代半ばは、社会人経験を積み、自分という人間の輪郭が見えてくる時期。ここでの転職やキャリアチェンジは、人生の修正として極めて自然な営みだと言えます。
一つの職業にこだわらない、広いキャリア観
「一つの仕事を務め上げる美学みたいなものはもちろんあるんですけど、もうちょっと広く考えてま、転職と言わなくてもま、とかでやってみるとか、まずは趣味としてチャレンジするとか、一つの職業にこだわらないっていうのは、ま、悪いことではないんかなっていう」
又吉直樹
終身雇用や一社勤めの美学を否定するのではなく、それ以外の選択肢も肯定する。副業や兼業、趣味からの派生、パラレルキャリアといった多様な形が、現代では現実的な選択肢となっています。「転職」という大きな決断でなくても、小さな挑戦を重ねていく道もあります。
若い頃の「ガムシャラ」も、あっていい
「ただ10代とか20代前半の時は俺にはこれしかないんだぐらいでガムシラに行く時期はあっていいと思いますけどね」「あかんかったら別やろっていう考え方もあるけど、一回は全力でやってみてもいいんじゃないですかね」
又吉直樹
柔軟なキャリア観を説きながらも、若き日の一途な情熱を否定はしません。「これしかない」と信じて突き進む時期があってこそ、後から振り返ったときに納得できる。もし合わなければ、また別の道を探せばいい。その「全力でやり切る」経験自体が、人生の糧になるという視点です。
キャリアは、一度きりの正解を出す試験ではありません。年齢とともに変化する自分に合わせて、何度でも書き換えてよい物語のようなもの。又吉氏の言葉は、迷いながらも前に進もうとする人々の背中を、そっと押してくれます。