「月々の返済が家賃より安い」——そう聞くと、同じ金額を払うなら持ち家のほうがよいように思えます。けれど、その安さの中身を確かめないまま契約すると、20年後に想定外の数字と向き合うことになります。
先に結論を書きます。月々が安くなる主な理由は、返済期間を長く取っているからです。残価設定型住宅ローンという仕組みの本体は、月額を下げる魔法ではなく、将来使える「出口」を用意する点にあります。
残価設定型住宅ローンとは、どんな仕組みか
住宅版の残価設定ローンと呼ばれることもある商品です。借りた直後は、基本的に普通の住宅ローンと同じで、元本と利息を毎月返していきます。
違いが出るのは、あらかじめ決められた「残価設定付き」の時期です。住宅会社などが将来の住宅価値を査定し、その価値とローン残高が重なる時期が設定されます。この時期を迎えると、二つの選択肢が使えるようになります。
- ローンを組み替えて、月々の返済額を大きく減らしながら住み続ける
- ローン残高に相当する金額で、家を買い取ってもらう
買い取ってもらう場合、残っているローンは売却代金で消えることになります。将来、住宅価格がローン残高を下回ってしまうリスクに備える「残価保証」が付く点も、この商品の特徴として説明されます。ただし、この保証は放っておいても続くものではありません。
「家賃より安い月額」をつくっているのは何か
たとえば4980万円の住宅を50年返済で借り、当初の金利が低い場合、月々の返済は9万円台という試算になります。同じ住宅を35年で返すと13万円台。月3万円以上の差が出ます。
ここで注意したいのは、この差が残価設定の効果ではないということです。返済期間を15年延ばしたことによる差です。同じ借入額を長く分ければ、1回あたりの負担は小さくなります。ただし、利息はその時点のローン残高にかかり続けます。元本の減り方が遅いぶん、大きな残高に長く利息が乗り続けることになります。
仮に金利がずっと年0.6%だったと仮定して、20年時点の残高を比べてみます。35年返済なら約2260万円、50年返済なら約3170万円。900万円以上の開きがあります。この数字は残価設定のせいではなく、返済を後ろに伸ばした結果です。月額を軽くした分、借金は長く残り続けている、と言い換えることもできます。
20年後の「出口」は、条件つきで開く
残価設定付きの時期を迎えれば出口が使える——ただし、その出口を維持するには条件があります。残価保証を続けるには、10年目から5年ごとに定期点検を受け、その結果を保証会社へ報告すること、そして必要と判断された修繕を実施することが条件になると説明されています。
点検と修繕には費用がかかります。月々の返済額の話をしているときには、どうしても見えにくい出費です。しかも、修繕を先延ばしにしたり、記録の残らない業者に頼んだりすると、保証そのものに影響が出る可能性があります。
また、残価設定付きの時期は固定ではありません。金利の動きや繰り上げ返済によって前後することがあります。「20年後に必ず」と覚えてしまうと、計画がずれたときに慌てることになります。
変動金利を選んだときに起きること
金利には固定と変動があります。当初は変動のほうが低いことが多く、月々の負担は軽くなります。一方で、変動金利は将来上がる可能性があります。金利の動きによって返済額が見直される局面は、これまでも起きてきました。
固定金利を選べば、その間の返済額は変わりません。その代わり、当初の金利は変動より高めになることが一般的です。どちらが得かは、借入額、返済期間、そして毎月どこまで払えるかによって変わります。「変動一択」とは言い切れません。
金利が上がると、返済額だけでなく利息の総額も増えます。50年返済で残高が大きいままなら、その影響はより長く続きます。
月額表示が見せないお金
持ち家には、ローン以外の出費があります。固定資産税、火災保険、地震保険、そして先ほどの点検や修繕です。これらは「月々9万円」という表示の中には入っていません。
月額で比べていると見えにくいのですが、年間で受け取る請求書は確実に存在します。ローンを組む前に、返済額と維持費を合わせた年間の支出を一度計算しておくと、判断の材料になります。
契約前に確かめておきたいこと
- 残価設定付きの時期はいつか。金利や繰り上げ返済でどう動きうるか
- 50年返済にした場合の総返済額と、20年時点のローン残高
- 残価保証を維持する条件(点検の頻度、修繕の範囲、費用の目安)
- 変動金利を選んだ場合、返済額がどこまで増えうるか
- 固定資産税、保険、修繕費を含めた年間の支出
- 契約書のうち、保証と条件に関する部分
80ページの契約書を最初から最後まで読むのは現実的ではありません。それでも、保証と条件のページだけは付箋を貼って読む価値があります。
まとめ
残価設定型住宅ローンは、月々の負担を軽くしながら、将来の選択肢を残す仕組みです。ただし、その軽さの多くは返済期間の長さから来ていて、出口は条件つきで開きます。
自分にとってどちらが合うかは、20年後の生活と、そのとき手元にいくら残っているかを想像すると見えやすくなります。判断に迷うときや不安が強いときは、住宅ローンに詳しいファイナンシャルプランナーなど、利害のない第三者に相談するという選択肢もあります。