発達障害と診断される人が増えています。児童数は2006年に約7000人だったのが2019年には7万人を超え、大人の診断数も2016年から1.8倍に増えたという調査結果があります。増加の背景には診断基準の広がりや生活環境の変化がありますが、仕事の現場では「忘れ物が多い」「遅刻が続く」「指示を覚えられない」「空気が読めない」といった困りごとが、本人の努力不足と誤解されやすいのも事実です。この記事では、診断が増える理由を整理しつつ、日々の負担を減らす具体的な工夫を紹介します。診断の有無にかかわらず、似た傾向で困っている人に使える内容です。
まず試したい、忘れ物と遅刻を減らす3つの仕組み
発達障害の傾向がある人に多いのは、頭の中だけで予定や指示を保持することが難しいことです。記憶力の問題ではなく、複数の情報を同時に保つ容量が少ないために起きます。だから「覚えておく」仕組みを外に置くのが基本です。
- 前日夜に「出かけるときに必要な物」を玄関にまとめます。鍵、社員証、財布、書類を一つのトレーに入れ、朝はそのトレーを持つだけにします。
- スマホのアラームを「家を出る10分前」と「最終時刻」の2回かけます。時間になったら途中でも支度に戻るルールを決めます。
- 指示を受けたら、その場でメモを取ります。可能なら「いま口頭で確認します」と復唱し、相手に認識のずれがないか確認します。
注意点として、パソコンに付箋を貼っても、その画面を開かなければ意味がありません。メモを書いたこと自体を忘れることがあるため、目に入る場所に物理的に置くか、スマホのロック画面に表示する方が続けやすいです。合わない場合は、1日のタスクを3つまでに絞り、終わったら次の指示をもらう方法もあります。
指示が重なると抜ける場合の対処
複数の用事を同時に頼まれると、後から来た情報に注意が向き、前の指示が消えることがあります。これは「やる気がない」のではなく、作業記憶の切り替えが苦手なために起きます。
- 新しい頼みごとが来たら、手を止めて「今やっていること」と「新しく来たこと」を紙に並べて書きます。
- 優先順位を自分で決めず、上司や同僚に「AとB、どちらを先にやるべきですか」と聞きます。
- 口頭での指示が多い職場なら、「短いメールかチャットで送ってもらえますか」と依頼します。記録が残り、見返せます。
もし周囲に頼みにくい場合は、自分だけの「受付メモ」を1冊用意し、日付と依頼内容、期限、完了チェック欄を書きます。終わったら線を引く。これだけで抜けが減る人もいます。
コミュニケーションのすれ違いを減らすには
自閉スペクトラム症の傾向がある人は、曖昧な表現や暗黙のルールを読み取るのが苦手なことがあります。また、思ったことをそのまま口にしてしまい、悪気がなくても相手を傷つけることがあります。職場では、次のような工夫が助けになります。
- 指示は「資料を3部印刷して会議室に置いてください」のように、数字や場所を具体的に伝えます。
- 皮肉や「空気を読んで」ではなく、「今はこの作業を優先してください」と直接伝えます。
- 本人がこだわりで作業を止めている場合、「その整理は後で時間を取るので、先にこの資料を仕上げましょう」と順番を示します。
本人側は、自分のこだわりや率直な発言が相手にどう伝わるか、後から振り返る時間を持つとよいです。ただし、無理に性格を変える必要はなく、周囲が伝え方を調整する方が負担が少ない場合もあります。
読み書きの苦手さがある場合の工夫
学習障害の一種であるディスレクシアのように、文字を読むことだけが難しい人もいます。会話では理解できても、文書になると内容が入ってこない。この場合、読み上げ機能や音声入力が実用的です。
- 長いメールや資料は、スマホやパソコンの読み上げ機能を使います。
- 会議の内容は録音して、後から聞き返します。許可が必要な場合は事前に確認します。
- 報告書は音声入力で下書きを作り、あとで文字を整えます。
周囲は、口頭での説明を増やしたり、図や箇条書きで要点を示したりすると伝わりやすいです。ただし、本人が望まない一方的な配慮は負担になることもあるため、どの方法が使いやすいか本人に確認するのが基本です。
診断が増えている背景をどう捉えるか
発達障害の診断数が増えている理由は一つではありません。診断基準が広がり、医療や教育の現場で気づかれやすくなったこと、インターネットで情報を得て自分から受診する人が増えたことが大きいです。また、幼い頃からスマホやタブレットを長時間使う生活が、集中力や衝動のコントロールに影響する可能性を指摘する見方もあります。ただし、これは先天的な要因を否定するものではなく、環境要因との組み合わせで症状に似た状態が現れることもある、という段階の話です。
大切なのは、診断名をつけることではなく、困っている作業や場面を具体的に分解し、仕組みで補うことです。診断がなくても、同じ工夫で楽になることは多いです。
まとめ
発達障害と診断される人が増えている背景には、診断の広がりと生活環境の変化があります。仕事での困りごとは、本人の怠けではなく、記憶や注意の特性によるものが少なくありません。忘れ物や遅刻、指示の抜け、コミュニケーションのずれは、道具と伝え方の調整で軽くできます。まずは「覚えておく」を外に出すこと、指示を一つずつ確認すること、曖昧な表現を具体的にすることから始めたいです。強い生きづらさが続く場合は、医療機関や相談窓口につなぐことも選択肢です。