「給食の唐揚げ1個」への批判から考える、学校給食と給食費のこれから
学校給食

「給食の唐揚げ1個」への批判から考える、学校給食と給食費のこれから

読了目安:約4分
文字サイズ

福岡市の学校給食の写真がSNSで広がり、大きな議論を呼びました。米飯に唐揚げ1個、味噌汁、牛乳という献立に対し、「粗末だ」「育ち盛りなのに」といった批判が相次ぎ、市の教育委員会には電話が集中したとされています。この出来事は、見た目の問題だけではなく、給食費の負担や栄養管理、学校現場の仕事量まで、いくつもの論点をつなぐきっかけになりました。

何が批判を呼んだのか

写真が与えた印象の中心は、唐揚げが1個しかないことでした。栄養面では基準を満たしていたとされますが、器が大きいために料理が少なく見え、見た目の貧弱さが強調された面があります。市の教育委員会は、必要な栄養は確保されているものの、見た目にも配慮が必要だったと説明したと報じられています。

SNS上では、国会議員の昼食や自衛隊の食事、刑務所の食事と並べる比較画像も広がり、学校給食だけが特に見劣りするという受け止めが強まりました。批判が直接のクレームへと発展し、電話がつながりにくくなる事態も起きたようです。

これに対し福岡市は、数日のうちに外部の有識者を交えた検討会を設け、改善を図る方針を発表しました。あわせて、食育の専門家や飲食業界の経験者を給食の企画に生かす方向や、給食予算の増額を検討する考えも示されています。市長は、効率よく栄養を取るという発想から離れ、食べたいと思える食事を提供するプロの視点を取り入れたいと述べたとされています。

給食費をめぐる数字

学校給食をめぐっては、ここ10年の物価高で食材費が上がり続けています。1食あたりの費用は2015年の243円から2025年には289円と、約2割増えたという試算があります。一方で、保護者から集める給食費は小学校で月額4200円、中学校で月額5000円と据え置かれ、市が公費負担を増やして対応してきたとされています。

今回の批判を受けて、福岡市長は市立小中学校の給食費を無償化する方針を打ち出しました。仮に小学生7万人、中学生3万5000人を対象にした場合、年間の負担額は小学生で約35.3億円、中学生で約21億円、合計で約56億円になります。福岡市の一般会計が約1兆1300億円であることを考えると、この金額は全体の0.6%程度にあたります。教育費全体から見ても、不可能ではない規模だという見方があります。

給食費がなぜ無償ではないのかという点には、日本の自己責任論の強さが関係しているという指摘があります。フランスやスウェーデン、フィンランドなどでは学校給食が無償の国もありますが、日本では「食事くらい自分で払うべきだ」という考えが根強く、給食費は教育費の一部として扱われてきませんでした。ただ、栄養のある食事は学びの前提条件であり、義務教育の間は給食を教育の一部と見なす考え方も成り立ちます。

給食費未納と学校現場の負担

給食費をめぐっては、未納の問題も長く続いています。2021年の文部科学省の調査として、全国の0.6%にあたる約15万人の未納が報告されたという数字があります。学校側が立て替えているケースを含めると、100万件近くに上るという指摘もあります。

未納の背景には、生活に困っている家庭や、減免の手続きを知らない保護者がいる一方で、「義務教育なのになぜ給食費を払うのか」と支払いを拒む層もいるとされます。給食費の徴収をめぐって教員が保護者と長期間もめるケースもあり、それが教員の負担やストレスにつながっているという報告もあります。

給食費を無償化できれば、こうした徴収業務そのものを減らせます。子育て世帯の不安を小さくするという意味でも、少子化対策の一部として検討する余地はあるでしょう。ただし、財源の確保や対象範囲、無償化によって給食の質が下がらないかといった点は、分けて考える必要があります。

批判とどう向き合うか

SNSの批判には、問題を可視化する力があります。一方で、一枚の写真だけで献立全体や栄養価を判断してしまう危うさもあります。栄養基準は満たしていても、見た目で「粗末だ」と決めつける前に、費用や現場の事情を確認したいところです。

たとえば、自治体に意見を伝える場合を仮定すると、「写真だけでは判断しきないが、見た目の改善と給食費の負担軽減は別の論点として検討してほしい」と伝えると、要望が具体化しやすくなります。感情的な非難よりも、制度や予算の話として扱うほうが、受け手も動きやすくなります。

一方で、SNS上で個人や学校を特定して攻撃するような伝え方は、問題の解決から遠ざかります。批判の対象を「制度」や「予算」に向けることと、現場で働く人を責めることは分けて考える必要があります。

唐揚げ1個の写真は、給食の見た目、費用、未納、教員の負担という別々の課題を一つにつなぎました。無償化だけが答えではなく、栄養と見た目の両立、財源の確保、現場の持続可能性をそれぞれ点検しながら、子どもの食事を社会全体でどう支えるかを話し合うことが求められています。

シェアする

気になる記事から、別の視点も見つけてみませんか。

AB型に多いと言われる7つの行動傾向を、職場の人間関係に活かす考え方
人間関係

AB型に多いと言われる7つの行動傾向を、職場の人間関係に活かす考え方

集中しているかと思えば急に別のことを始める人、本音をあまり話さない人、距離が近づくと少し離れたくなる人。職場や友人関係で、そうした相手にどう接すればいいか迷うことはないでしょうか。AB型の性格診断でよく挙げられる7つの傾向を、相手を決めつけるためではなく、自分と相手のペースを守るための手がかりとして整...

記事を読む
「世界は仮想現実かもしれない」とホッとする心理——シミュレーション仮説との距離の取り方
心理学

「世界は仮想現実かもしれない」とホッとする心理——シミュレーション仮説との距離の取り方

「この世界は仮想現実かもしれない」——そう聞いて、笑って流せる人もいれば、妙に納得してしまう人もいます。結論から書くと、世界が仮想現実かどうかは、今のところ証明されていません。ただ、疲れているときほどこの手の話が心地よく響くのには、仮説の正しさとは別の理由がありそうです。 シミュレーション仮説は、証明...

記事を読む
休んだのに疲れが取れないのはなぜ? 「偽回復」から抜け出す休日の整え方
休息とセルフケア

休んだのに疲れが取れないのはなぜ? 「偽回復」から抜け出す休日の整え方

休日にたっぷり寝て、甘いものを食べて、SNSを見て過ごしたのに、夕方には朝より疲れている。そんな休日は、回復ではなく「消耗を止めるだけ」で終わっている可能性があります。疲れが取れないのは、休む量が足りないからではなく、休み方の順番が逆になっているからです。 たっぷり寝たのに回復しない理由 睡眠は回復の土...

記事を読む
大雨が増える時代、古い橋やダムの点検を先送りしないためにできること
防災・暮らしの備え

大雨が増える時代、古い橋やダムの点検を先送りしないためにできること

近年、日本各地で大雨による河川の氾濫や土砂災害が増えています。その背景には、気候変動による雨の降り方の変化と、橋やダムなど社会インフラの老朽化があります。老朽化した施設は、想定を超える雨が降ったときに壊れやすく、被害を大きくする要因になります。一方で、修理や点検を「誰かがやってくれる」と待っている間...

記事を読む

気になるテーマを、次も。

フォローしたテーマの新着記事をホームに表示します。登録は不要です。