たとえば年末に16時間断食をいったん休んだ人の場合を考えてみる。正月明けの朝、久しぶりに体重計に乗ると、思ったより数字が上がっている。秋から3か月かけて減らした分の一部が、たった10日ほどで戻ってきたように見える。このとき、体の中ではいったい何が起きているのか。全部が元に戻ってしまうのか。断食をやめた後に起こる変化には、はっきりした順番がある。
最初に戻るのは「水」であって脂肪ではない
断食をやめた翌朝、まず目に見えて増えるのは脂肪ではない。肝臓や筋肉に蓄えられるグリコーゲンと、それに結びついた水分だ。グリコーゲンは自分の重さの3〜4倍の水を抱え込むため、朝食を再開しただけで体重計の数字は大きく動く。さらに、まだ消化されていない食べ物の重さもそのまま乗る。だから最初の数日の増え方は、脂肪がつく速さと比べるとずっと早い。逆に、断食を始めた最初の週に減った分も、多くはこの水分だった。数字だけを見ると1日で太ったり痩せたりしたように見えるが、この種類の重さは断食を再開すれば数日で抜けていく。
数週間かけて脂肪と筋肉が元に近づく
その後、数週間をかけて戻ってくるのが脂肪だ。ラマダンという1か月の断食前後を調べた70の報告、約2900人をまとめた分析では、断食期間が終わった時点で体重は平均約1.3kg減っていた。しかし、終了から2〜5週間経つと、減った分の半分以上が戻り、脂肪量も元との差がなくなっていた。断食中に少し減っていた筋肉などの除脂肪体重も、元の水準に近づいた。つまり、食べる時間が元に戻れば、脂肪も筋肉もおおむね以前の状態へ向かう。ただし、この分析の参加者は30歳前後が中心で、日本の正月とは過ごし方も違う。60代で同じように残るかは分かっていない。
食欲の仕組みは1年経っても残ることがある
断食をやめて数週間すると、夕方の空腹や夜のおやつが気になり始めることがある。意思が弱くなったように感じるが、体の食欲に関わる仕組みが働いている可能性がある。オーストラリアで行われた研究では、50人が10週間の食事制限で平均13.5kg減らした後、1年経っても空腹を知らせる物質が増えたまま、満腹を知らせる物質が減ったままだった。体は減る前の体重を覚えていて、元に戻そうと空腹の合図を出し続ける。ただし、この研究は断食ではなく、ごく低カロリーの食事で大きく減らした人を対象にしている。数kgの変化で同じ強さになるかは分からない。
断食をやめたから特別に太るわけではない
断食で痩せると、やめた後に前より太りやすくなるのか。アメリカで、太った大人26人が8週間、1日おきに断食する方法と、毎日少しずつ食事を減らす方法を比べた研究がある。どちらも8週間で7〜8kg減り、その後半年は自由に暮らしてもらった。半年後の体重の戻り方に、2つの方法の間ではっきりした差は出なかった。体脂肪の割合はむしろ断食の組の方が良い形で残っていた。断食だったから他の方法より特別に戻りやすい、という結果ではなかった。ただし、参加者は26人と少なく、55歳までが対象だ。戻り方を決めるのは、断食というやり方より、やめた後の食べ方であることが多い。
毎朝の数字で「泥」の増え始めに気づく
体重には、朝起きてトイレの後に乗ると決めておくと数字がぶれにくい。1日の上下ではなく、1週間の平均で見ると、水分と脂肪の変化を見分けやすくなる。2年以内に平均19kgほど減らした300人を1年半追いかけたアメリカの研究では、毎日体重を測り、増えたら早めに手を打つ練習をした人の戻りが少なかった。1年半で戻った体重は、対面で練習した人で2.5kg、何もしない人で4.9kgだった。毎朝同じ時間に数字を読むことは、脂肪が増え始めるサインに気づく一番早い手になる。平均がはっきり上がり始めたら、夜の間食を1週間だけやめてみる、という調整もある。これは研究で比べられた方法ではなく、暮らしに合わせた一つの例だ。
薬を飲んでいる人へ
糖尿病の薬や血圧の薬を飲んでいる人は、断食をやめるときも、また始めるときも、自分だけで決めないほうがいい。血糖値を下げる薬の量を断食に合わせて調整していた人が急に元の食事に戻すと、薬の量が合わなくなることがある。めまいや体調不良がきっかけで断食をやめた場合も、診察でそのことを伝えておくと安心だ。体重が大きく動いたときは、一度主治医に相談しておくのが安全だ。
断食をやめることと、すべてを元の生活に戻すことは同じではない。たとえば朝食は食べるが、夜8時以降のつまみと寝る前のおやつはやめる。そういうやめ方もある。体重計の数字に一喜一憂せず、水分と脂肪を分けて見る視点を持っていると、正月明けの増え方にも冷静でいられる。池の水位に驚かず、底に溜まる泥を見張る。それが断食を休んだ後の体と付き合うときの、一つの味方になる。