新しい趣味に「一番いい道具」を買ってしまうのはなぜ? 「一生もの」に託す心理
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新しい趣味に「一番いい道具」を買ってしまうのはなぜ? 「一生もの」に託す心理

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新しい趣味を始めるとき、入門用ではなく「一番いいもの」を選んでしまう。そんな経験がある人は少なくないでしょう。答えを先に書くと、それは浪費癖でも意志の弱さでもありません。まだ確かめようのない「続けられるかどうか」を、道具の値段で先に決着させようとしているからです。

値段は今日決められます。けれど、続くかどうかは来週にならないとわかりません。その不確かさを埋めるために、人は道具を買います。買った瞬間には、まだ何も始まっていないのに「決めた」という感覚だけが手に入ります。

ある創作のなかに、ブームが来るたびに一番いい道具を揃えてきた人物が描かれます。自転車、キャンプ、釣り。どれも「今度こそ一生の趣味」と言いながら、道具だけが部屋に積み上がっていきます。極端に描かれた物語ですが、そこで起きていることの一つひとつは、現実の買い物にも顔を出します。

「一生もの」という言葉が約束しているもの

店頭で最初に勧められるのは入門用の品です。ところが客が「一生の趣味にする」と言うと、話は一段上に移ります。そこで出てくるのが「一生もの」という言葉です。

この言葉の説得力は、値段を時間で割る計算にあります。たとえば80年使うとして80万円なら、1日あたり23円。「実質ただみたいなもの」という理屈が成立します。ただし、この計算には小さな条件がついています。実際に続けること、です。物語のなかでも店員は「続けばそうですね」と答えています。そしてこの条件だけは、買う瞬間には検証できません。

「一生もの」は品質の話をしているようで、実は時間の話をしています。そして時間の部分は、買った人にしか保証できないのです。

高い道具は「やめない理由」になるのか

高額な道具には、心理的な副作用があります。サンクコストとは、すでに払ってしまった費用のことです。人はこの費用を回収したいと感じるあまり、たとえ合わなくても同じ選択を続けやすくなります。「もったいないからやめられない」という感覚がそれです。

物語の人物は、この仕組みを自覚的に使おうとします。高い道具を買えば、もったいなくてやめないはずだ、と。心理学では、将来の自分を縛るためにあえて選択肢を狭めることをコミットメント・デバイスと呼ぶことがあります。ただし、これは「その活動が好きだ」という前提があってはじめて機能します。好きでもない活動を、お金の力で長引かせてしまうこともあるのです。

釣具店の店主が「ブームのときに新品で一式揃える客ほど、1年で売りに来る」と語る場面があります。これは物語の台詞ですが、まとめて揃えた道具が使われないまま手放される例は、実際にもよく聞きます。金額が継続の保証になるわけではない、という見方は持っておいてよさそうです。

中古を避けたくなる理由

物語の人物は、中古を頑なに避けます。「中古は前の人がやめた理由までついてくる」というのです。これは損得の計算ではありません。新品にはまだ誰の物語もついていない。自分の物語をゼロから始められる気がする。そういう感覚に近いのでしょう。

一方で、10年乗っている1万5000円の中古自転車や、祖父の竿に1000円の仕掛けで25匹釣る友人も描かれます。道具の値段と、その日の満足度は、必ずしも比例しません。

ただし、これは「安ければいい」という話でもありません。手入れの行き届いた道具が長く使えるのは事実ですし、高い道具だからこそ続いた、という人もいます。向き不向きの話であって、どちらが正しいという話ではないのです。

6脚の椅子と、埋まらなかった夜

キャンプ道具を揃える場面で、人物は6脚の椅子を買います。誰かに頼まれたわけではありません。「これから集める」つもりなのです。道具は、これから出会うはずの人間関係のために買われます。まだ存在しない予定に、先に席を用意してしまうわけです。

同じ場面で、定価より6万円高いテントも選びます。理由は「みんなが欲しがっているものなら安心」というものでした。人気は品質の証明ではありませんが、判断の材料にはなります。人が多い選択を安全と感じる傾向は、社会的証明と呼ばれ、誰にでもあります。

そして、6脚が全部埋まった夜が一度だけあります。雨が降り、30年使われてきた古いテントに6人が入る。物語で「一番いい夜」とされるのは、一番高い道具を買った夜ではなく、人が集まった夜でした。

ブームが終わったあとに残るもの

2023年、感染症法上の位置づけが変わり、休日の過ごし方は旅行や外食へと戻っていきます。物語の人物の部屋には、自転車とテントと釣り具が残ります。本人はほとんど外に出ていません。

ここで問われているのは、趣味の選び方というより順番の問題です。道具を揃えることが目的になり、使うことが後回しになる。使う前に支払いだけが始まる。物語では、ロードバイクに乗ったのは9回、船での釣りは3回でした。数字は極端ですが、順番が入れ替わる感覚には心当たりがある人もいるのではないでしょうか。

買う前に試せること

ここからは、記事として提案できる具体的な方法です。効果を保証するものではありませんが、判断材料にはなるはずです。

  • 借りてから買う。レンタルや乗り合い船のように、一式借りられる形が用意されている趣味は少なくありません。数回借りて、それでも物足りなければ買う。
  • 「何回行ったら買う」と先に決めておく。回数を決めておくと、買うかどうかを気分ではなく記録で見られます。
  • 月々の支払いを合計する。分割やリボ払いは毎月の額が一定な代わりに、残った額に手数料がかかり続けます。複数の支払いが重なると、合計額は把握しにくくなります。
  • 中古を選択肢から外さない。「前の人がやめた理由」を気にする気持ちは自然ですが、道具そのものの状態は別に確認できます。
  • 誰かのための装備は、相手が決まってから。椅子の話は、その典型です。

一方で、この見方が当てはまらない人もいます。道具そのものを集めたり眺めたりすることが好きで、出番が少なくても満足できる人。仕事や家族の事情で、短い期間に集中して楽しみたい人。そういう場合に「回数」を基準にするのは、かえって窮屈です。

支払いが生活を圧迫している、返済の見通しが立たないという状態であれば、心理の話で片づけず、消費生活センターや家計相談の窓口に相談する選択肢があります。借金やローンの悩みは、一人で抱え込まないほうが現実的です。

道具を選ぶ前に考えたいこと

買う前に考えてみるとよいのは、「次の週末、自分は何をしていたいか」です。その答えが「道具を眺めていたい」なら、それも一つの趣味のかたちです。ただ、その場合に必要なのは一番いい道具ではなく、置き場所と、無理なく払える金額かもしれません。

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