薬箱だけは、なかなか片付かないという声をよく聞きます。食べ物なら見た目や匂いで判断できますが、薬は古くなっても見た目がほとんど変わりません。しかも、病院に行ってお金を払って手に入れたものだから、捨てるのに迷いが生じます。薬箱の中身を「見た目で判断する」のをやめて、いくつかの決まりで分けていく方法をまとめます。
最初に一つ、大切な前提があります。袋やシート(板)から出してしまった薬は、箱に書いてある使用期限が当てはまりません。使用期限は、未開封のまま決められた保管方法で置いておいた場合の日付です。開封後の品質は保証されていません。瓶に移した湿布、小袋にまとめた錠剤、いつ開けたか分からない目薬などは、使えるかどうかを見分ける方法自体がありません。この前提をもとに、薬箱を減らしていきます。
家中の薬を一箇所に集めて3つに分ける
まず、薬箱の中だけでなく、家中の薬を一箇所に集めます。冷蔵庫のドアポケット、洗面所の棚、枕元の引き出し、鞄の内ポケット、旅行用の袋、車の中、仏壇の戸棚など、思っていた以上に出てくるはずです。同じ薬が2つも3つも出てきたら、それは鞄に入れたのを忘れて買い足したものです。
集めたら、次の3つに分けます。
- 病院でもらったもの
- お店で買ったもの
- 何か分からないもの
このうち「何か分からないもの」の山が一番高いことも少なくありません。名前が読めず、何の薬か説明できないものは、置いておく理由がありません。家族の薬が混ざっている場合は、まず自分のものかどうかだけ確認し、人別に分けるのはその後で構いません。
袋やシートから出した薬は、名前がない時点で手放す
薬のシートには、たいてい薬の名前が印刷されています。あれは場所を取るための印刷ではなく、何かあったときに何を飲んだかが分かるようにするためのものです。ところが、かさばるからとシートから押し出して小さな瓶や袋に移すと、薬の名前も日付も分からなくなります。旅行のときに数日分だけ取り分けて、そのまま引き出しに戻してしまうこともあります。
名前のない薬は、迷う材料がないのですから、ここで手放してかまいません。また、シートのままでも、薬を袋から出して箱にばらばらに入れている場合も注意が必要です。処方された薬の袋には、いつ出された薬で、何日分で、どう飲むかが書いてあります。袋ごと取っておけば、後から薬局で見てもらうときに話が早くなります。薬は薬だけでは情報が足りず、紙と一緒で初めて薬として扱えます。
箱の日付は「開けるまで」の目安と置き場所
薬の箱には「使用期限」と書いてあるものと、「製造年月」だけのものがあります。表示が分かれているのは、薬の種類によってルールが異なるためです。変質しやすいものとして国が指定した薬には使用期限の表示が義務づけられ、それ以外の薬は、決められた置き方をしていれば3年以上は性質が変わらないという前提で、製造年月だけが書かれています。
そのため、製造年月しか書いていない箱を見つけたら、作られてから3年を一つの目安に考えます。ただし、これは開けていないことが前提です。置き場所も重要で、洗面所の鏡の裏は湯気や温度の上昇があり、台所のコンロ近くや日の当たる窓辺も適しません。薬に一番いいのは、暗くて涼しくて乾いた場所です。子どもの手の届かないことも条件に、保管場所を一箇所だけ決めておくと、薬が家中に散らばりにくくなります。
目薬・軟膏・湿布は開封後の時間で判断する
目薬は、未開封の市販品なら作られてからおよそ2〜3年が目安ですが、開封後は話が変わります。市販のものでおよそ3か月、病院で処方されたものはおよそ1か月、短いものでは1週間と案内されています。点眼するときに容器の先がまつ毛や目に触れ、そこから菌が入って増えるためです。去年の花粉の時期にもらった目薬は、今年は使わないほうが安全です。目薬は家族でも貸し借りしないでください。同じように目が赤くても原因が異なり、容器を通して目の病気がうつることがあります。
軟膏は、チューブの口が指で触れることで汚れていきます。病院でもらった軟膏には何のための薬か書いてありますが、半年も経つと何に効くものだったか思い出せないことがあります。湿布は、口が開いたままだと薬の成分が飛んでしまい、貼っても匂いしかしない状態になります。冷蔵庫に入れると書かれた薬を常温に出したままにしていないか、逆に常温でよいものを冷蔵庫に入れていないかも確認します。迷ったら、名前が読めて、何の薬か自分で説明できるかどうかで判断してください。
飲み残しの処方薬は「薬」ではなく「荷物」になる
飲み切らずに残った処方薬は、残薬と呼ばれます。国の推計では、家庭で眠る残薬は年間およそ500億円分に上るそうです。これは「もったいない」という話ではなく、残してしまうのが特別なことではないという意味です。症状が良くなって途中でやめた、飲みにくくてやめた、別の病院で似た薬が出て重なった、飲み忘れた。どれも責められることではありません。
ただ、残った薬を引き出しにしまった時点で、それは薬ではなくただの荷物になります。使う予定がないのに保管し続けると、薬箱が片付かない原因になります。飲み残しは、後で説明する方法で手放すのが現実的です。
一番危ないのは、残り薬を自分の判断で飲むこと
残った薬を「去年と同じような頭痛だから、あのとき効いた薬がまだあったはず」と自分で判断して飲むのは、薬箱の中で最も危険な行為です。症状が同じでも原因が同じとは限りません。薬の量は、そのときの体重や他の病気、腎臓や肝臓の状態を見て決められています。何年か経てば、同じ人でも同じ量が適切とは限りません。今飲んでいる薬との組み合わせによって、昔は何ともなかった薬が具合を悪くすることもあります。家族の薬を「効いたから」と誰かに渡すのも、同じく避けるべきです。
さらに、残り薬は小袋や瓶に移されていることが多く、最初に述べたように袋やシートから出した時点で期限は当てはまりません。効くかどうか以前に、安全かどうかが誰にも分からない状態です。前にもらった薬は残っていても自分の判断では飲まず、心配なら薬局で確認する。この決まりだけで、残薬の危険はかなり減らせます。
手放すなら薬局へ。自治体のルールで捨てる場合の注意
薬を手放す一番簡単な方法は、薬局に持っていくことです。薬剤師の団体の案内では、「捨てたい薬なのですが」と伝えて持って行けば、もらった薬局でなくても受け付けてもらえるとされています。飲み残しを見せると叱られるのではと思う方もいますが、その心配はありません。むしろ、次の処方のときに量を調整してもらえ、残っている分だけ減らして出してもらえることもあります。その分、支払いも軽くなります。持っていくときは、袋ごと紙袋に入れるだけで構いません。種類ごとに分けたりきれいにしたりする必要はなく、そこで手間取って行けなくなるのが一番もったいないことです。
自分で捨てる場合は、中身が見えない形にすることと、お住まいの市や町の分別ルールに従うことの2点に注意します。薬の捨て方は自治体によって異なります。医療用の麻薬に当たるものは、自分で捨てずに薬局や病院に相談してください。
捨ててはいけないのはお薬手帳
ここまで減らす話をしてきましたが、捨てないどころか持ち歩いてほしいのがお薬手帳です。お薬手帳は、今まで飲んだ薬、かかった医療機関、市販薬やサプリメントの名前などを一冊に記録しておくものです。大事なのは、病院ごと薬局ごとに別々の手帳を作らないことです。別れていると、飲み合わせや薬の重なりを確認してもらえません。
災害のときにも、どんな薬を飲んでいるか、合わなかった薬は何かがすぐに分かります。薬そのものが手元になくても、手帳が一冊あれば同じ薬を出してもらえる可能性が高くなります。手帳がない場合は、紙一枚に飲んでいる薬の名前と量を書いて、持ち出し袋と財布の中に入れておくだけでも役に立ちます。
薬箱は、見た目で使えるかどうかを判断しようとすると、いつまでも動きません。袋やシートから出した薬は期限が当てはまらない、名前が分からないものは置かない、残り薬は自己判断で飲まない。この三つを決めておくだけでも、薬箱の中身はかなり減らせます。ここで紹介したのは薬箱を減らすための判断基準であり、薬の服用や中止についての医療的な助言ではありません。飲み合わせや服用中の薬の相談は、薬剤師や医師に任せてください。