2. 恐れていることを小さく試す
古代ローマの哲学者セネカは、友人への手紙の中で、数日間あえて質素な食事と粗末な服で過ごし、「これが自分の恐れていたものなのか」と確かめる練習を勧めました。余裕があるうちに、恐れている暮らしを少し経験しておくという提案です。
日常では、断るのが怖いなら小さな依頼を一度断ってみます。相手が少し残念そうでも翌日普通に話せたなら、断ることと関係が終わることを分けて考えられます。予想を確かめないままだと、恐れを避けるための生活が続いてしまいます。
ただし、元の暮らしに戻れる練習で困窮の厳しさを知り尽くせるわけではありません。セネカ自身も、その生活が多くの人にとって日常であると書いています。ここで参考になるのは、恐れていることを具体的に確かめる姿勢です。絶対に耐えられないと思っていたことが、実際は好きではないがある程度対応できるものかもしれません。その違いが判断に関わってきます。
3. 何を避けているかを見る
コンフォートゾーンは必ずしも楽な場所ではありません。たとえば、頼まれたことを全部引き受けて忙しい人がいるとします。本人は余裕が欲しいのに、次の依頼が来ると引き受けてしまいます。断り方を考えなくていい、相手に変な顔をされなくていい、増えた仕事を自分が頑張れば進む。体は辛いのに、その対処に慣れているのです。
この人にとってより良い選択は「できないと伝える」「誰かに任せる」かもしれません。しかし不慣れなことを避けるために、仕事を増やしている場合があります。だから忙しさや苦労の量だけで、必要なことに向き合っているかは分かりません。行動によって何を避けているかを見る必要があります。
また、休むことや楽にすることまで成長の妨げとして扱わなくていいのです。仕事からの回復研究では、仕事のことを頭から離す、リラックスするなどが回復に関わる経験とされています。安心できる時間に毎回成長の理由をつける必要はありません。見直したいのは、慣れた方法しか選べなくなっていないかということです。いつも休んでしまう人と休めない人では、必要な行動が違います。
4. 気まずさを避け続けると、慣れる機会も失う
ある研究では、即興演劇の講座などに参加する500人以上を対象に、気まずさを練習がうまく働いている印として捉え、あえて不快さを感じるくらい取り組むよう伝えたグループは、通常の指示を受けたグループより注目される役割を長く続け、動きも大胆になったと報告されています。
ここで変わったのは練習への取り組み方です。苦しんだ量に比例して能力が上がるという法則が確認されたわけではありません。人前で表現する練習では、注目されて気まずくなること自体が練習の一部になります。気まずくなった瞬間に交代してしまえば、人前に立つ経験を十分に積めません。逆に気まずさを感じながらもう少し続ければ、人前で表現する時間が増えます。つまり気まずさを避け続けると、人前で平気に振る舞う機会そのものを失うのです。
順番が大切です。まず身につけたいことがあり、その練習に伴う不快を引き受ける。先に苦痛を探して後から成長の意味をつけると、話が変わってしまいます。負荷を選ぶ基準は、辛さの大きさより、その辛さが何につながっているかです。
5. 必要だと判断したことは、気持ちよくできたかで採点しない
企画を見せるのが怖いなら、資料を増やすだけでは人の反応は分かりません。必要な準備が済んでいるのにさらに整え続けているなら、評価を受ける瞬間を遠ざけているかもしれません。聞くのが恥ずかしいなら聞く時かもしれません。断るのが気まずいなら断る時かもしれません。
緊張が残ったまま聞きたかったことを聞く。申し訳なさを感じながらでも引き受けられないと伝える。うまく話せなくてもいいのです。声が震えてもいい。聞くべきことを聞けたなら、分からないまま持ち帰らずに済みます。断るべき依頼を断れたなら、自分の予定を守れます。
行動したかどうかを、気持ちよくできたかどうかで採点しないことです。怖かった、それでもやった。その経験には意味があります。企画を見せた結果、厳しい意見が返ってくるかもしれません。そこで初めて直すべき場所が分かります。見せる前は自分の案がダメかもしれないと考えていたのが、見せた後はどこを変えればいいかを考えられるようになります。不安の中で想像していた問題を、実際に扱える問題へ変えていくのです。
1人に見せると決めたなら見せるところまでやる。相談すると決めたなら連絡するところまでやる。途中まで準備して一番避けている部分だけを明日へ残さないようにします。
今向き合うことには、いつ誰にどこまで試すかをまだ自分で選べるという意味もあります。企画の途中なら相談する相手を選べます。指摘された部分を直す時間もあります。締め切り直前に見せれば、同じ指摘を直す時間も選べる相手も減ってしまいます。先延ばしを完全になくす必要はありません。ただ、避けた瞬間の安心と、問題を片付けた後の安心では、その先に残る生活が違います。今日一つ、「これを避けたら問題は消えるのか、未来の自分に渡すだけなのか」を確かめてみてください。