仕事の中の手間を分ける
たとえば会議の資料を20ページ作るとします。図を整え、言葉を直し、細かい補足を入れる。でも、判断に使われるのが1ページだけなら、残り19ページが何のためにあるかを先に確認したい。必要な説明なら残せばいい。なくても判断が変わらないなら、その部分を減らすのがいい選択です。
20ページをきれいに作れるようになることと、1ページで目的を果たせると気づくことでは、その後の時間の使い方が変わります。どうすれば上手にできるかを考える前に、どこまでやる必要があるかを確かめる。この順番を一度試してみてください。
面倒の原因を調べる
取り組む価値があると分かっていても、手続きが面倒で後回しにしてしまうことはあります。たとえば老後のための積み立て。このとき「自分は先延ばし癖がある」と性格のせいにする前に、どこで止まっているかを見る方法があります。
アメリカの退職貯蓄制度の例では、従業員が自分で申し込む方式から、自動的に加入し希望しない人だけ手続きする方式へ変えたところ、経済的条件を変えていなくても加入率が大きく上がったと報告されています。何もしなかった場合に起きることが違う。この初期設定の影響は「デフォルト効果」と呼ばれます。
この話は、人の行動を変えたいとき、本人の知識や意欲だけを見ていては見落とすものがあることを示しています。その人が迷って手を止めたとき、どうなるように作られているか。そこにも行動を変える余地があります。
面倒だと感じたら、何が面倒なのかを少し詳しくしてみましょう。やったつもりなのにできていなかった、ならどうすればできていたかを考える。たとえばオンラインで書類を埋め、最後に「完了」と書かれたボタンを押したのに、翌日担当者から手続きが終わっていないと連絡が来た。実は完了ボタンの後、トップページからさらに送信を押す必要があった。本人は途中で投げ出したつもりもない。必要を終えたと思っている。この場合、次からもっと注意することはできますが、最後のボタンを押せば終わるように作っておけば、同じ混乱を減らせます。
この視点は、怠惰というよりルールの欠陥を埋める思考です。必要な情報が見つからないなら、見つけにくい場所にあることが悪い。言葉の意味が分からないなら、対象者を想定できていない。何度も同じことを入力しているなら、システムの接続が悪い。面倒だという感覚を、自分の性格の説明だけで終わらせない。その感覚を手がかりに作業を調べてみてください。
繰り返す面倒は仕組みで減らす
毎週同じ数字を集めているなら、一度自動で集計できる形を作る。今日だけなら手作業のほうが早いかもしれません。仕組みを作るには調べる時間も、正しく動くか確かめる時間もかかります。それでも、来週もその次も同じことをするなら、今のうちに変えておく意味があります。
同じ面倒を繰り返したくないから、最初に仕組みを作り込む。ここには楽をするための努力があります。毎回頑張る方へ使っていた力を、次からの手間を減らす方へ使う。やらなくていい工程はなくし、残った仕事は必要な確認を保ちながら、できるだけ繰り返しやすくする。面倒だと感じるたびに自分へ気合いを要求しなくてもいい。その面倒を一つ減らせば、次の自分も助かります。
時間の使い方を確かめる
この考え方は、行動経済学で「ナッジ」と呼ばれる工夫と重なります。選択肢を禁止したり、大きな報酬や罰を使ったりせず、選択肢の示し方を工夫して行動を後押しする方法です。セイラーは支援をカーナビに例えています。目的地は本人が決める。途中で寄り道をしても、ナビは叱らずそこから経路を計算し直す。
仕事に重ねると、何を作るのか、どの問題を解くのか、どこまでできれば目的を果たしたと言えるのか。ここには自分で考える時間を使いたい。一方、その目的へ進むための手順はできるだけ簡単にしておけます。重要だからといって、そこに含まれる手間が全部重要なわけではありません。相手が何に困っているかを理解するには話を聞き、考え、確かめる時間が必要ですが、その記録を複数の場所へ何度も打ち直す手間は減らせるかもしれません。楽にできる部分を楽にしても、取り組んでいる問題の価値が下がるわけではありません。
今日はたくさんの仕事を終えた。では、その中で本当に進めたかったことは何だったのか。苦労して仕上げた。では、その苦労のうち次から減らせるものはないか。忙しかったという事実だけで一日を評価しなくてもいい。空いた時間を重要な問題に使ってもいいし、休むために使ってもいい。楽になった分をすぐ別の面倒で埋める必要もありません。努力の量と同じくらい、自分の時間を何に使ったかを確かめる。その問いを持つために必要なのは、案外、立ち止まることなのかもしれません。