深夜に目が覚めて、何年も前の失言や、まだ起きてもいない仕事のトラブルを考え続けてしまう。そんな夜に必要なのは、悩みを一つずつ解決することではなく、「これは今、考える必要があるのか」を仕分ける基準です。
投資家ナバル・ラビカントの言葉をもとに、ある書き手が整理した基準として紹介されているのは、四つの質問と四つの土台という考え方です。悩みのすべてに対処するのではなく、本当に向き合う価値のあるものだけを残し、それ以外は「今日は考えない」と決める。順番に見ていきます。
「考えている」つもりで、同じ不安を温め直している
頭の中でぐるぐると同じ思いが回り続けるとき、私たちはそれを「考えている」と感じています。けれど紹介されている言葉では、本当の意味で深く考えることのほうがずっと珍しく、心配だと思っているものの大半は思考ですらない、という趣旨の指摘があります。
同じ不安を何度も取り出しては温め直しているだけで、判断は少しも進んでいない。冷めたスープを何度も電子レンジに入れているようなものだ、というたとえが添えられていました。
しかも厄介なのは、止めようとするほど勢いよく回り出すことです。考えないようにしようと思った瞬間に、もう考えてしまっている。だから必要なのは意志の強さではなく、仕分けるための道具なのだと思います。
悩みを仕分ける4つの質問
考えすぎていると気づいたとき、自分にこう問いかけるのだそうです。
- このことは、自分の収入に影響するだろうか
- 健康に影響するだろうか
- 今夜の眠りに影響するだろうか
- 気分に影響するだろうか
四つのどれにも当てはまらないなら、それはノイズ。そう判定して、頭の中の電源を落とす。シンプルですが、実際に紙に書き出してみると、多くの悩みがどれにも当てはまらないことに気づきます。
ここで一つ、注意しておきたいことがあります。この四つの質問は「今この時間に悩む価値があるか」を仕分けるためのものであって、その物事の人生における重要度を決めるものではありません。たとえば、仮の例として、友人の話を聞く時間は収入にも健康にも直結しませんが、だから無意味だということにはなりません。今は手放し、落ち着いて考えられる時間に回す。そういう使い方が現実的だと思います。
土台1:お金の「流れ」の安全
四つの土台の一つ目が、お金の流れです。ここで重視されているのは、資産を増やすことよりも手前にある、キャッシュフローの安全という地味な土台でした。
目安になる問いは、こうです。「もし明日から働かなくなったら、今の収入の流れで何ヶ月暮らしていけるか」。すぐに答えられる人は多くない、と紹介されています。多くの人は資産を増やすことばかり考えて、足元のクッションの厚みを測らないのだそうです。
書き手自身の体験として語られているのは、会社を辞めた直後の感覚です。自由を手にしたはずが、頭の中は常に来月の家賃のことで、カフェでコーヒーを一杯頼むのにも言い訳を探していた。それが、自分の作った商品に安定した注文が入り始めたとき、初めて心が地面についた感覚があったといいます。金額の大きさではなく、毎月途切れずに流れてくるという事実が、肩の力を抜かせたのでした。
流れがあると人は堂々と生きられる。それは欲しいものが買えるからではなく、やりたくないことに対して「もういい」と言えるようになるからだ、という見方も示されていました。これはお金の問題というより、尊厳の問題なのだそうです。
土台2:筋肉という「体の予備」
二つ目は筋肉です。見た目のためではなく、体に蓄えておく予備のようなもの、という位置づけでした。口座に予備のお金があると安心できるのと同じで、いざというときに引き出せる蓄えが体にも必要だということです。
普段はあってもなくても気づきません。けれど病気をしたとき、怪我をしたとき、残業が何日も続いたとき、その蓄えがあるかどうかで回復の速さは変わってきます。
書き手の苦い経験として紹介されていたのは、友人と事業を立ち上げた頃の話です。朝は起きられず、昼食後は眠らないと持たず、午後もずっと頭に薄い霧がかかったようで、同じメールを何度も読み返しては返事を翌日に回していた。そこで朝のジムに通い始めると、午前中のうちにその日一番大事な仕事が片付き、午後はずいぶん気楽に過ごせるようになったといいます。
ただし、運動の始めやすさは人によって違います。持病や障害のある方、育児や介護でまとまった時間が取れない時期の方もいます。筋肉という言葉からジムを思い浮かべがちですが、日常の買い物で歩く、階段を使う、といった負荷でも積み重ねにはなります。体調を崩しているときは無理をしないことが優先です。
土台3:眠りを最もリターンの高い行動として扱う
三つ目は睡眠です。勉強よりも人付き合いよりも眠りを優先する、という言い方は少し意外に聞こえるかもしれません。けれど、判断の質を高めてくれる投資はほかにない、という趣旨の言葉が紹介されていました。
徹夜で働き、夜更かしを努力の証明にする。その翌日に下す判断はひどいもので、その後の始末にさらに多くの時間を使うことになる。努力の証明が、やり直しの証明になってしまうわけです。
書き手の体験として語られていたのは、締切に追われて一週間続けて夜中2時まで起きていたときのことです。本人はむしろ調子がいいと思っていたそうです。夜は静かで集中できる、自分は効率よく働けていると。異変に気づいたのは二週目に入った頃でした。コミュニティで誰も発言しなくなり、自分の書いた文章にも以前のようなひらめきがなく、数字が少しずつ下がっていった。
ここが一番怖いところだと感じます。自分が鈍っていることに、本人はなかなか気づけません。むしろ調子がいいとさえ思っている。その間に判断力は少しずつこぼれ落ち、小さなことにいちいち腹が立ち、少し大きめの出来事で世界の終わりのような気分になる。
なお、眠れない背景に強い不安や体調の問題、生活環境の変化がある場合、気合いで解決しようとすると苦しさが増すことがあります。不眠が続くときは、専門家に相談するという選択肢も残しておいてください。
土台4:心の状態は「結果」であり「原因」でもある
四つ目が心の状態です。ここが面白いのは、気分というものを、ほかの三つの結果でもあり、原因でもあるものとして見ている点でした。
結果としての側面。お金の流れ、筋肉、睡眠が整っていれば、気分が悪くなるほうが難しい。心はほかの三つの成績表のような役割を果たしている、というわけです。
原因としての側面。逆に心が一度崩れると、まず眠りの質が落ち、運動に行くのが面倒になり、お金の管理も雑になっていく。書き手の体験として紹介されていたのは、会社を辞めた直後にほとんど体を動かさなかった一ヶ月の出来事です。夜は不安で眠れず、昼間の頭は煮詰めたのりのように重く、仕事は進まず、成果を見ては気分が沈み、沈んだまま布団に入ってまた眠れない。誰かに打ちのめされたわけではなく、自分で自分を引きずり倒していたのでした。きっかけは、運動を一ヶ月サボっただけ。
小さな綻びは、放っておくと連鎖します。だからこそ、どれか一つで満点を取るのではなく、四つの間に互いを支え合う構造をつくる。弾み車のように、一度回り始めると次の領域も少しずつ楽になっていく。そういう見方なのだと思います。
では、どれから手をつけるか
四つのうち、入口にしやすいのは睡眠か、体を動かすことかもしれません。どちらも翌日の気分に直接響き、気分が整えばお金の管理や判断にも影響するからです。あくまで一つの提案ですが、たとえば次のような小さな試し方があります。
- 寝る時刻を30分だけ早めて、一週間続けてみる
- 朝か昼に10分だけ歩く日を、週に二日つくる
- 通帳か家計簿を見て、生活費の何ヶ月分があるかを紙に書き出す
一つできたら、ほかの領域が少し楽になっていることがあります。逆に、四つの枠に収まらない事情を抱えている人もいます。介護、病気、急な経済的な切迫。枠はあくまで道具で、当てはまらない自分を責める材料ではありません。
今夜、また考えが止まらなくなったら、四つの質問をスマホのメモに打ち込んでみてください。どれにも当てはまらないなら、それは今日考えなくていいことです。当てはまったなら、今夜は答えを出さず、明日の昼間に一つだけ具体的な行動を決める。それくらいの距離の取り方が、ちょうどいいのかもしれません。