たとえば、夜の8時に夕食を終えて、そのまま翌日の夜の8時まで何も食べなかったら、体の中では何が起きるでしょうか。お腹が空く、少し体重が減る。最初に思い浮かぶのはそのくらいかもしれません。けれど、食べ物が入ってこない24時間のあいだ、体内ではかなり忙しい変化が進んでいます。
断食は「内臓を休ませる時間」と思われがちです。しかし臓器ごとの動きをたどると、休むというより、仕事の内容を変えて互いに助け合う時間だという見え方になります。ここでは、24時間の断食で体がどのように燃料を切り替えていくのか、そして「16時間でオートファジーが始まる」という話が人間ではどこまで言えるのかを整理します。
食後すぐは、まだ断食モードではない
食事を終えた直後、体は入ってきた食べ物の処理に追われています。ご飯やパン、麺などの炭水化物は消化されてブドウ糖になり、血液中へ入ります。血糖値が上がると膵臓からインスリンが分泌され、ブドウ糖を筋肉や脂肪細胞へ運びます。すぐに使わないエネルギーは、肝臓や筋肉にグリコーゲンとして保存されます。
だから、断食を始めた瞬間から脂肪だけを燃やすと考えるのは少し早いのです。最初の数時間は、むしろ食事の後片づけに近い段階です。
肝臓が非常用バッテリーになる
食後4時間から8時間ほど経つと、インスリンは食後より低くなってきます。ここから前に出てくるのが肝臓です。肝臓には、食べていない時間でも血糖を保つ役目があります。まず使うのは、食事の後に保存しておいたグリコーゲンです。肝臓はそれを分解してブドウ糖に戻し、必要に応じて血液中へ送り出します。
イメージするなら、肝臓は非常用バッテリーのようなものです。外から燃料が来なければ、中の蓄えを使います。この時間に強い空腹を感じる人もいますが、空腹と本当のエネルギー不足は同じではありません。普段朝の7時に食べる人なら、その時間になるだけで習慣によってお腹が空きやすくなることもあります。前日の食事や睡眠、普段の食事時間によって空腹の強さはかなり変わります。
12時間、16時間は切り替えの目安にすぎない
夜8時に夕食を終えたなら、朝8時で12時間が経過しています。この頃になると、食事から直接入ってきたエネルギーは減り、体は保存していた燃料を使う割合を増やしていきます。肝臓ではグリコーゲンを使いながら、脂肪組織からは脂肪酸が少しずつ放出されます。脂肪酸は筋肉や一部の臓器で燃料になり、肝臓ではケトン体の材料にもなります。
ただし、12時間や16時間になった瞬間に体が別物になるわけではありません。糖を使う体から脂肪だけを使う体へ一気に切り替わるわけでもありません。ブドウ糖も使い、脂肪酸も使い、ケトン体も少しずつ使います。体は複数の燃料を同時に使っているのです。時間とともに燃料の比率をゆっくり変えていく過程です。
16時間を超えてくると、肝臓はもう一つ大切な仕事を増やします。糖新生です。これは体内にある材料を使って新しいブドウ糖を作る仕組みで、乳酸やグリセロール、一部のアミノ酸などが材料になります。なぜ脂肪があるのにブドウ糖まで作るのかというと、体のすべての細胞が脂肪やケトン体だけで動けるわけではないからです。たとえば赤血球はブドウ糖に依存しているため、一定の糖が必要になります。肝臓は脂肪利用を増やしながらも、必要な場所へ届けるブドウ糖を作り続けます。
16時間でオートファジーが始まるとは言い切れない
断食の話題でよく聞くのが、16時間でオートファジーが始まり、24時間なら細胞の掃除が進むという説明です。オートファジーは細胞内の不要な成分を分解し、一部を再利用する仕組みで、栄養不足との関係は細胞や動物の研究で長く調べられています。
ただ、人間で同じことが何時間後に起きるかは、まだはっきり分かっていません。2022年のレビューでも、一度の断食でどれほど増えるかは不明とされています。つまり、16時間でスイッチが入り、24時間で大掃除すると断定するのは難しいのです。この点を押さえておくだけでも、断食情報を冷静に見られるようになります。
これはオートファジーが起きないという意味ではありません。細胞や動物で確認されている仕組みと、人間の体内でいつ、どの程度強まるかは別の話だということです。
24時間後の臓器は休まず役割を変えている
最後の食事から24時間が経つと、膵臓から出るインスリンは食後より低くなり、貯蔵したエネルギーを使いやすくなります。肝臓はグリコーゲンを使いながら糖新生で必要なブドウ糖を作り続け、脂肪酸からケトン体も作ります。脂肪組織では脂肪酸が放出され、脳はブドウ糖を使いながら増えてきたケトン体も一部利用します。筋肉も必要に応じて脂肪酸などを使い、自分のグリコーゲンは主に自分自身のために残します。胃や腸も完全に止まるわけではありませんが、新しい食事を処理する仕事は少なくなっています。
なお、人を対象にした研究では、肝臓のグリコーゲンは12時間で約29%、24時間で約57%減少したという報告があります。ただし0になるわけではなく、筋肉に蓄えたグリコーゲンは主に筋肉自身が使うものです。
つまり24時間断食とは、臓器が役割を変えながら協力する時間です。しかし、一度24時間断食しただけで内臓脂肪が一気に消えるわけではなく、糖尿病が治るわけでも、寿命が伸びると決まったわけでもありません。代謝が変化することと、長期的な健康効果が保証されることは別です。
試すなら、いきなり24時間ではない
もし自分でも試してみたいと思ったら、いきなり24時間に挑戦するより、まず今の食事時間を確認するのが現実的です。夜8時に夕食を終えたら、翌朝8時まで食べないだけで12時間になります。夜食や寝る前のお菓子をやめるだけで12時間を作れる人も多いでしょう。まず12時間で体調に問題がないかを見て、慣れてから14時間や16時間を考えます。24時間はその先にある長い段階です。
水分をきちんと取り、強いふらつきや体調不良が出たら無理に続けないことです。再食後に反動で大量に食べる必要もありません。普段の食事をゆっくり食べれば十分です。体重管理が目的なら、断食時間だけでなく食べる時間の内容や歩く習慣、睡眠も大切になります。
糖尿病でインスリンや血糖を下げる薬を使っている人、フレイルがある人、意図しない体重減少がある人、摂食障害の経験がある人は、自己判断で長時間断食をしないほうがいいでしょう。治療中の病気や薬がある場合は、始める前に医師や管理栄養士へ相談してください。24時間断食は全員がやるべき健康法ではありません。
断食の時間を長くすることだけが目的になると、体の警告を見落としやすくなります。まずは12時間を試して、空腹の感じ方や集中力の変化を自分の感覚として確かめる。そこから先へ進むかどうかは、その感覚を頼りに決めるのが現実的です。