健康診断の結果に印がついて、食事を少し控えたり歩く時間を増やしたりする。それでも2週間ほどで体重が1キロ減ったのに、鏡に映るお腹は思ったほど変わらない。そんなとき、やめてしまいたくなるのは自然なことです。ただ、外から見える変化より先に、お腹の奥では小さな変化が始まっています。
体重の減らし方は人それぞれです。ここでは、どうやって減らすかではなく、1キロずつ減るたびに内臓の側で何が起きているのかを順にたどります。あくまで研究に参加した人たちの平均であり、一人ひとりにそのまま当てはまる数字ではありません。
最初に反応するのは肝臓
体を漬物樽にたとえると、樽の中の野菜が肝臓や心臓などの内臓、蓋の上に載っている重し石が内臓脂肪にあたります。内臓脂肪から出た脂肪は肝臓につながる太い血管を通って流れ込みやすいため、重し石を一つ下ろすと、いちばん近くにある肝臓が先に楽になりやすいのです。
実際に、体重が5パーセント減った時点で肝臓の脂肪は平均約4割減っていたという研究があります。同じ時点で内臓脂肪の減少は約7パーセントにとどまり、人によるばらつきも大きいと報告されています。鏡ではまだ分からなくても、肝臓はかなり早い段階から反応していることになります。
1キロごとに血圧が少しずつ下がる
体重を減らした25の比較試験、約4900人分をまとめた分析では、体重が1キロ減るごとに上の血圧も下の血圧もおよそ1mmHgずつ下がっていました。1mmHgは小さく聞こえますが、血管には一日中休みなくかかり続ける違いです。試験全体では平均5.1キロの減量で、上の血圧は約4.4mmHg下がっています。
血圧の薬を使っている人では、下の血圧の下がり方がより大きかったという結果もあります。減量を始める前や途中の数字は、主治医と一緒に確認しておくほうが安心です。
糖尿病の手前の人ではリスクが下がる
アメリカで糖尿病の一歩手前とされた平均50歳の人たちを追った研究があります。生活を変える組に入った1079人を3年余り追跡したところ、体重が1キロ減るごとに糖尿病になる危険は約16パーセントずつ低くなっていました。食事の中身や運動量の変化を考慮しても、いちばん強く関係していたのは体重でした。
一方で、体重が目標まで減らなかった人でも、早歩きのような運動を週に合計150分行う目標を達成した人では、糖尿病になる割合が約4割減っていました。体重の数字だけがすべてではありません。ただし、この結果はもともと糖尿病の手前にいた人たちのもので、誰にでも同じ幅で当てはまるとは限りません。
健診の数字が揃って動き始める3パーセント
体重80キロの人なら、3パーセントはちょうど2.4キロです。日本の特定保健指導を受けた3480人の記録を調べた研究では、体重を3パーセント以上減らした人で、血圧や血糖値、尿酸値まで調べた11項目すべてが改善していました。1〜3パーセントの減量でも中性脂肪や肝臓の数値、LDLコレステロール、ヘモグロビンA1cなどはすでに下がり始めていました。
研究者は、日本人の健診の数字を改善するには3パーセントが最低限の目安だとしています。外見が変わるより先に、健診の項目が動き始めるのがこのあたりです。
内臓脂肪は初期に減りやすい
体重を減らした61の研究をまとめた分析では、少し痩せた段階では皮下脂肪より内臓脂肪のほうが割合として先に減りやすい傾向が見られました。内臓脂肪は皮下脂肪より代謝が活発だと考えられています。さらに大きく痩せていくと、その差はだんだん小さくなっていきました。
食事で減らすか運動で減らすかという方法の違いは、ほとんど関係していませんでした。例外はごく低カロリーの食事で、最初の数週間だけ内臓脂肪が特に早く減りましたが、その差も3か月ほどで消えています。急ぐことが近道になるわけではないようです。
5パーセントで肝臓脂肪が大きく減る
肥満の人を体重維持の組と5パーセント減らす組に分けた研究では、5パーセント減らすまでの期間は平均で3か月半ほどでした。この時、肝臓に溜まった脂肪は平均で約40パーセント減り、体脂肪全体は約8パーセント、内臓脂肪は約7パーセントの減少にとどまりました。肝臓と筋肉と脂肪の3か所で、血糖を下げるホルモンの効きが良くなったことも報告されています。
体重80キロなら5パーセントは4キロです。樽のたとえでいえば、石が4つ降りただけで下の野菜がずいぶん元気になった状態です。ただし、この研究の参加者は平均43歳で、19人中16人が女性でした。50代の日本人男性に同じ幅の変化が起きるかは、まだ確かめられていません。
5キロ目で見た目が変わり始めるが、筋肉にも注意
5キロを超えるあたりで、ようやくベルトの穴が一つ内側に入る頃です。血圧の分析では、平均5キロより多く減らした研究では上の血圧が約6.6mmHg下がり、5キロより少ない研究では約2.7mmHgでした。糖尿病の研究でも、5キロごとに糖尿病になる危険は約6割低くなっていました。
ただ、減った5キロの中身がすべて脂肪というわけではありません。5パーセント減量した時、筋肉など脂肪以外の重さも約2パーセント減っていました。筋肉は食後の血糖を受け止める体内でいちばん大きな場所でもあります。50代、60代では足の筋肉を保つことも大切です。毎食のタンパク質を一品増やし、歩く時間も続けることが、重し石だけを下ろして樽の板まで削らない工夫になります。
数字を読むときの限界
- ここで並べた数字は研究参加者の平均であり、一人への予言ではありません。
- 研究の多くは海外のもので、日本人で確かめたのは特定保健指導の記録が中心です。
- 内臓脂肪を画像で直接測った研究と、健診の数字だけを見た研究が混ざっています。
- 減らした体重を何年も保てたか、体重が戻ったときに内臓がどうなるかは十分に分かっていません。
体重の数字だけでは、内臓脂肪がどれだけ減ったかまでは見えてきません。週に一度、同じ曜日にへその高さの腹囲を測って書き留めておくと、変化の手がかりになります。
5キロは遠いゴールではなく、1キロごとに内臓が先に返事をしてくれる道のりです。鏡の変化は最後でも、血圧や肝臓、健診の数字はそのずっと前から動いています。焦ってやめるより、1キロ、3パーセント、5パーセントという内側の目安を自分のペースで確かめていくのがよさそうです。