たとえば、年に一度の健康診断で腹囲を測られ、去年より少し増えた数字を見たとする。鏡に映る体型はそれほど変わっていないのに、肝臓や腸の周りには見えない脂肪が溜まっているかもしれない。この内臓脂肪は、ただ余ったエネルギーをしまっておく倉庫ではない。増えすぎると血糖や血圧の乱れと深く関わってくる。では、この脂肪が減り始めた瞬間、体の中では何が起きているのだろうか。
目に見えるお腹の変化より先に、体の内側では静かな流れの切り替えが始まっている。
脂肪が手放されるとき、最初に起きること
内臓脂肪は、ある時刻になったら突然燃え始めるわけではない。食事から入るエネルギーより体が使うエネルギーが多い状態が続くと、足りない分を体内の貯蔵庫から補おうとする。脂肪細胞に保存されていた中性脂肪が、脂肪酸とグリセロールに分解され、使える燃料へと姿を変えていく。ここが、脂肪が手放されていく最初の一歩だ。
ただし、体は内臓脂肪だけを選んで燃やしているわけではない。皮下脂肪を含め、いくつもの貯蔵エネルギーが同時に使われる。その中でも内臓脂肪は比較的変化しやすい脂肪とされており、体重が大きく動いていない時期でも、体内ではすでに変化が始まっていることがある。
脂肪の行き先は、息と水
分解された脂肪酸は血液に乗り、エネルギーを必要としている組織へ運ばれる。たとえば、歩く、階段を登る、掃除をするといった何気ない動きでも、筋肉は絶えずエネルギーを使っている。運ばれた脂肪酸は細胞の中に入り、ミトコンドリアという小さなエネルギー工場で使われ、体を動かす力になる。
ここで多くの人が知らない結末がある。燃料として使われた脂肪の重さの大部分は、最終的に二酸化炭素になる。脂肪が燃やされた結果として二酸化炭素が生まれ、肺から息として外へ出ていく。残りは水になり、尿や汗、呼気などを通して体の外へ出る。つまり、脂肪を減らすとき、そのかなりの部分を私たちは息として吐き出している。
ただし、深呼吸をたくさんすれば痩せるという意味ではない。先に脂肪をエネルギーとして使う必要があり、その結果として二酸化炭素ができる。順番を逆にしても、ただ呼吸しているだけでは脂肪は減らない。
肝臓と血糖に表れる、もう一つの変化
内臓脂肪が多い人では、肝臓にも脂肪が溜まっていることがある。内臓脂肪と脂肪肝は同じものではないが、強く関連している。食べすぎや運動不足が続くと、余ったエネルギーが体に運び込まれ、脂肪をしまう場所が足りなくなると肝臓にも脂肪が広がっていく。倉庫に入りきらない荷物が別の部屋まで広がるような状態だ。
体が保存したエネルギーを使う側に回ると、内臓脂肪や肝臓に溜まった脂肪が少しずつ減っていく。すると、インスリンへの反応が改善することがある。インスリンは血液中の糖を細胞へ取り込むのを助けるホルモンで、内臓脂肪が増えすぎると効きにくい状態と関連する。脂肪が減ることで、同じ量の糖を処理するための体の負担が軽くなる可能性がある。
大切なのは、理想体重まで痩せないと意味がないわけではないことだ。比較的小さな変化でも、代謝の指標が改善した例があると報告されている。だから、毎日の体重だけを見て一喜一憂する必要はない。数週間という単位で、腹囲、血圧、血糖、中性脂肪などの変化を見るほうが現実的だ。腹囲は内臓脂肪の蓄積を見る目安の一つだが、それだけで正確に測れるわけではない。同じ条件で測り、変化の方向を確認するための手がかりとして使いたい。
断食と内臓脂肪は、同じ意味ではない
16時間断食やオートファジーを知っていると、食べない時間が長くなれば内臓脂肪が減ると思いがちだ。しかし、オートファジーと内臓脂肪の減少は同じ意味ではない。食べない時間が長くなると、脂肪を燃料として使う割合は高まりやすい。それでも、断食時間以外に食べる量が増え、1日全体でエネルギーが余れば結果は変わってくる。
16時間という数字だけを成功の基準にする必要はない。12時間でも続けやすい人もいれば、食事時間を整えるだけでいい人もいる。無理なく続けられる方法で、エネルギー収支を整えることのほうが、内臓脂肪を減らすうえでは大切だ。
今日から変える場所は、一つでいい
内臓脂肪を減らしたいからといって、急に厳しい食事制限や激しい運動へ走る必要はない。最初にやることは、自分の生活で一番変えやすい場所を一つ選ぶことだ。たとえば、次のような小さな選択がある。
- 毎日飲んでいる甘い飲み物を、水やお茶に変えてみる
- 夜になんとなく食べているお菓子の回数を減らしてみる
- 食事を減らしすぎるのではなく、タンパク質や野菜を先に整えてみる
もう一つ始めやすいのが、歩く時間を少し増やすことだ。いきなり1万歩を目標にしなくても、今の生活より1日10分多く歩くだけでいい。昼食の後に5分、夕食の後に5分でも合計10分になる。筋肉を動かせばエネルギーを使い、食後の糖を処理する助けにもなる。膝や腰に痛みがあるなら、無理に歩数を増やす必要はない。自分の体に合う運動を選び、必要なら医療機関に相談するのが安全だ。
睡眠も無視できない。睡眠不足が続くと、食欲や血糖の管理が難しくなる人がいる。夜更かしして空腹が強くなり、つい余計に食べてしまうこともある。食べ方、動き方、眠り方を少しずつ整えていくほうが、内臓脂肪対策としては現実的だ。ただし、三つ全部を今日から完璧にする必要はない。今日変えるものは一つで十分で、二週間続いたら次の一つを足していけばいい。
脂肪は一晩で増えたものではなく、一晩で全部なくなるものでもない。それでも、体が脂肪を使う流れは今日の行動から変え始めることができる。鏡に映る変化より先に、体の中の流れが変わり、やがて数字や感覚に静かに表れてくる。その変化を急がず、同じ条件で記録した数週間の軌跡の中に見つけていきたい。