たとえば朝の台所で、ゆで卵を二つ手に取りながら「毎日4個食べればお腹の脂肪が減るらしい」と検索したことがある人もいるかもしれません。けれど、卵を4個食べたからといって、お腹の脂肪だけが直接燃えるわけではありません。人を対象にした研究で、そのような単純な関係は証明されていません。ただ、卵が体脂肪と無関係というわけでもなく、変化が現れやすいのはもっと身近な「空腹感」と「その後に食べる量」です。
卵を食べて最初に変わるのは、お腹ではなく空腹の間隔
卵4個には、およそ25g前後の良質なたんぱく質が含まれます。朝に甘いシリアルや菓子パンだけを食べた場合と比べると、たんぱく質をしっかり取ったほうが満腹感は続きやすくなります。実際に、卵の朝食とベーグルの朝食を同じくらいのエネルギー量で比べた研究では、卵を食べた人のほうがその後の空腹感が弱く、その日後半の食事量も少なくなる傾向が確認されています。
つまり卵は、脂肪を直接溶かす食品というより、食べすぎを起こしにくくする道具として使うのが現実的です。朝の10時や11時になると菓子パンやスナックに手が伸びるなら、まず注目したいのは昼までの空腹感の変化です。
追加ではなく置き換え。ここを間違えると意味が変わる
最も間違えやすいのは、これまでの朝食を残したまま卵を4個足してしまうことです。パンも甘い飲み物もそのままに卵を追加すれば、単純にエネルギーが増えることがあります。大切なのは追加ではなく、今食べているものの一部と置き換えることです。
たとえば、朝に菓子パンを2個食べているなら、1個を卵と野菜の組み合わせに変えてみる。大きなボウルの甘いシリアルなら、卵と野菜、きのこや味噌汁に置き換える。すると朝食後の満足感が変わり、次の食事までの時間が長くなる可能性があります。
1週間、2週間と続けたときにお腹の脂肪に起きること
ここで重要になるのは、1日全体でどれくらい食べたかという視点です。卵で満足感が上がり、間食が減り、昼や夜の食べすぎも少なくなると、1日の摂取エネルギーが整いやすくなります。体脂肪が減るためには、この全体のバランスが欠かせません。
2008年に体重が多めの成人を対象に行われた試験では、卵2個の朝食とベーグルの朝食を8週間比べました。カロリー制限をした卵グループでは、ベーグルグループより体重の減り方が大きく、ウエストの減少も大きい傾向がありました。ただし、カロリー制限をしていなかった人たちでは、卵とベーグルの間に大きな減量差は出ていません。つまり、卵を食べただけで体重が勝手に落ちたわけではなく、満足しやすくなったことで減量のための食事を続けやすくなった可能性がある、という解釈が近いのです。
内臓脂肪の数字を見るとき、卵だけの効果とは言い切れない
お腹の脂肪には、皮膚のすぐ下にある皮下脂肪と、お腹の奥で肝臓や腸の周りにつく内臓脂肪があります。健康面で注意されるのは主に内臓脂肪で、インスリンが効きにくい状態や2型糖尿病、心臓や血管の病気のリスクと関係しています。だからこそ、体重だけでなくウエストや健康診断の数値も大切です。
卵と内臓脂肪の話でよく引用される研究に、60歳から75歳までの肥満のある成人を対象にした8週間の試験があります。炭水化物をかなり少なくしたグループは1日に卵を丸ごと3個食べ、MRIで測った内臓脂肪が平均22.8%減ったと報告されています。ただしこの試験は、卵3個だけを変えた研究ではありません。食事全体で炭水化物を大きく減らし、肉や魚、野菜、脂質の組み合わせも違い、結果的に摂取エネルギーも少なくなっていました。内臓脂肪が減った理由を卵だけに求めることはできません。
同じことは「4個」という数字にも言えます。毎日4個でなければ効果がないわけではなく、研究によって2個だったり3個だったり、条件もそれぞれ違います。2個で十分満足できる人もいれば、体格や食事量によって3個のほうが合う人もいます。個数よりも、その食事で余計な間食が減るかどうかが判断の分かれ目です。
コレステロールの話を切り離さない
毎日4個と聞くと、コレステロールが気になる人も多いはずです。健康な人の場合、食事から取るコレステロールだけで血液中の値がすべて決まるわけではありません。一方で、LDLコレステロールが高い人や脂質異常を指摘されている人は注意が必要です。その場合は卵の個数だけを見るのではなく、肉の脂身やバターなどに多い飽和脂肪酸も含めて食事全体を確認します。健康診断でLDLが高いと言われているなら、毎日4個を自己判断で続ける必要はありません。医師や管理栄養士と相談しながら、自分の検査値に合った量を決めるほうが安心です。
卵を試すなら、個数より自分の空腹感を観察する
最初に見るのは卵の数ではなく、今の朝食です。朝が菓子パン中心だったり、砂糖入りの飲み物を毎日飲んでいたり、朝食の2時間後にはもう何かをつまんでいるなら、そこが最初に変える場所です。いきなり毎日4個にする必要はなく、まずは2個からでも十分です。卵に野菜やきのこ、味噌汁を合わせ、代わりに菓子パンや甘いシリアルを少し減らします。そのうえで3日から1週間ほど、昼までの空腹感と間食の回数を観察してみてください。
もし卵を食べてもすぐにお腹が空くなら、卵の数を増やすより、野菜や海藻、豆類などの食物繊維が足りているかを食事全体で見直すほうが近道です。16時間の断食や1日1食のスタイルをしている人も、卵を食べるためだけに断食をやめる必要はありません。食べる時間帯の中で、パンやお菓子の一部を卵やほかの良質なたんぱく質に置き換えれば十分です。1日1食の場合も、卵だけで1回の食事を完成させようとせず、たんぱく質、野菜、食物繊維、必要なエネルギーを1日全体で確保することが大切です。
特に50代以降は、体重だけを急いで落とすと脂肪と一緒に筋肉まで減ることがあります。卵はたんぱく質を手軽に取りやすい食品ですが、筋肉を守るには卵だけでなく、十分なたんぱく質と日常の運動も必要です。食事と一緒に歩く習慣も忘れないようにしたいところです。
結局のところ、毎日4個の卵を食べても、お腹の脂肪が自動的に燃えるわけではありません。けれど、卵に置き換えることで空腹感が減り、間食や食べすぎが減るなら、1日の摂取エネルギーが整い、時間をかけて体脂肪や内臓脂肪が減る可能性はあります。卵の個数に振り回されるより、朝の空腹感と間食の回数が変わるかを観察するほうが、自分の体に合うかどうかが見えやすいはずです。